ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、約8か月が経ちました。
当初のロシアの目論見通りにはいかず、侵攻は長期化の様相を呈しています。
連日マスメディアを中心にウクライナ侵攻に関するニュースが流れ、ロシアに対して否定的な感情を持つようになった人も多いのではないでしょうか。
「ロシアは一刻も早く侵攻を止めろ」、「100%ロシアが悪い」、「ロシアを懲らしめてやれ」といったように。
その一方で、情報統制を行っているロシア国内では、プーチン大統領、ウクライナ侵攻を支持する人が80%を超えるとも言われています。
このように聞くと、さらに「ロシア人はなんて非常な奴らだ」、「ロシア人をいじめてやれ」、といった攻撃的な感情が起こってしまう懸念があります。
現に、日本でもロシア料理店に嫌がらせしたり、物を壊したりするなどの暴挙に出る人も現れるようになってしまいました。
われわれ人間には、思考のクセがあります。
そのクセに気づかずにモノを考えることが染みついてしまうと、相手方の考え方を受け入れることができず、一方からのモノの見方に支配されてしまいます。
ロシアは「なぜ」ウクライナ侵攻を行っているのでしょうか?
また「何のために」ウクライナ侵攻を行っているのでしょうか?
ロシア国内でプーチン大統領やウクライナ侵攻を支持している人が大多数ということは、そこに国際社会と相容れないモノの見方が存在しているはずなのです。
このような問題を解決するためには、思考のクセに気づき、様々な角度からモノを見られるようにする必要があります。
そこで今回は、思考のクセに気づき、新たなものの見方を手に入れる方法についてご紹介したいと思います。
ステレオタイプの光と影
人間は誰しも型にはまった考え方を持っているものです。
この型は、生まれた場所、世代、社会的地位などの環境によって、長い時間をかけて培われてきたものです。
例えば、男性は左脳が発達していて論理的にモノを捉えることに優れ、女性は右脳が発達していて感情的にモノを捉えることに優れている、といった話を聞いたことがあるのではないでしょうか。
これを男性脳、女性脳と言ったりしますが、実は男女差より個人差の方が大きいということがわかっています。
また、日本では血液型による性格の違いを信じる人が多いと思います。
A型はまじめで几帳面、B型はマイペースで身勝手、O型は大らかで大雑把、AB型は天才肌で独特の感性といったように考えられています。
しかし、血液型による性格の違いに有意差はないとする研究が支持されており、血液型による性格の違いを信じているのは日本人くらいです。
そのため、海外で気軽に血液型を聞くという行為は、奇妙に映るわけです。
このように型にはまった考え方を「ステレオタイプ」と言います。
そして、ステレオタイプを生み出す最大の役割を担うのがマスメディアです。
先程のウクライナ侵攻の件で言えば、日本では、国際社会の立場から繰り返し繰り返し報道することで「国際社会が善、ロシアが悪」という構図をつくり、私たちにその型を提供しています。
一方ロシア国内では、そのような情報を遮断し、ロシアの立場から繰り返し繰り返し報道することで「ロシアが善、国際社会が悪」という構図をつくり、ロシア国内で支持を得ているわけなのです。
つまり、われわれは情報に触れるときにクリティカル(批判的な)態度で接しない限り、いつの間にかマスメディアが伝えるとおりの型を、知らず知らずのうちに自分の考え方として持ってしまうのです。
このように話してくると、ステレオタイプは悪いモノと捉えてしまうかと思いますが、必ずしもそうではありません。
初めて行った場所で初めて見たものでも、見た目、形状、置いてある環境などからして「あれは椅子だな」ということがすぐわかるわけです。
先に紹介した血液型による性格の違いの場合でも、人それぞれ性格は違うとすると、日本人だけでも1億2,000万パターン以上の性格があることになりますが、血液型によって分類することで、たった4パターンに当てはめることができるのです。
つまりステレオタイプは、理解、思考のショートカットを担う役割を演じているのです。
基本的に脳はサボりグセがあり、できるだけ稼働しなくて済むようにできています。
もし脳がフル稼働した場合、とてつもないエネルギーが消費されてしまいます。
そうならないようにするために、ショートカットするための型を持とうとするのです。
アインシュタインは、「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクションである」という言葉を残していますが、型をそのまま受け入れ続けると、それが常識となって疑うこともしなくなってしまうのです。
逆に言えば、ステレオタイプや常識とされていることを疑ってかかることで、新たな視点を手に入れることができるのです。
人間には2つの思考法がある
「アドラー心理学」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
心理学者アルフレッド・アドラーが提唱した心理学を総称してそのように言い、近年ではアドラー心理学を題材にした「嫌われる勇気」という書籍が大ベストセラーになり、ドラマ化までされたので、ご存じの方も多いと思います。
アドラーは、原因論(過去の出来事が、現在の状況をつくっているとする考え方)を否定し、目的論(何かの目的があって、現在の状況をつくり出しているとする考え方)を提唱しました。
アドラー心理学に深く立ち入らずに説明を進めるため、今回は、何かが起こった原因を追求する考え方を「原因思考」、何のためにそれが起こったのかを追求する考え方を「目的思考」と定義します。
例えば、「会社に行く時間なのに、家のカギが見当たらない」という状況を考えてみましょう。
原因思考で考えると、「なんでカギがないんだろう?いつもはここに置いてるんだけど。昨日お酒飲んで帰ってきて、ここらへんで服を脱いで…」とカギがまだ手元にあったときのことを思い出す行動をとるはずです。
一方、目的思考で考えると、「何のためにカギはないんだろう。そうか、本当は今日会社に行きたくなくて、自分の無意識がカギを隠したんだな」とこれから起こる出来事に目を向けると思います。
ちなみに、自分がやりたくないと思っていることを無意識で創造的に回避しようとすることをクリエイティブ・アヴォイダンスと言います(クリエイティブ・アヴォイダンスの働きによりカギが見当たらない状況のときは、あたりをつけずにまんべんなく探すと見つかる可能性が高まります)。
つまり、原因思考は「過去」に意識が向いた思考、目的思考は「未来」に思考が向いた思考だと言い換えることができるでしょう。
そして、私たちは学校教育をはじめとしたさまざまな環境により、8割~9割が原因思考、過去思考で考えるクセがついてしまっています。
そのクセは健康に関することになると、全く違うアプローチをもたらすことになります。
健康における「原因思考」と「目的思考」はこんなにも違う
以前「自然治癒」の話のときに少しご紹介しましたが、今回改めて「原因思考」、「目的思考」という観点から、風邪をひいたときのことを考えてみましょう。
くしゃみが出る、鼻水が出る、鼻づまりになる、のどが痛い、せきが出る、たんがからむ、発熱する、身体が痛くなる、倦怠感が出る…などなど、風邪の症状は様々あります。
そもそもこのような症状が出なかったとしたらどうでしょうか?
もちろん自然治癒の力で治ってしまうことがほとんどだと思いますが、知らず知らずのうちに身体が蝕まれることになるのです。
大事なことは、症状というのは身体から発せられる何らかのシグナルであるということです。
では、これらの症状を原因思考で捉えるとどうなるでしょうか?
くしゃみ、鼻水、せき、熱が出る原因を突き止めてその機能を停止させよう、体力なくなっているから休もう、という考え方になるでしょう。
これはまさに西洋医学の考え方なのです。
一方、目的思考で考えるとどうなるでしょうか?
くしゃみや鼻水、せきが出るのは菌やウイルスを身体の外に出すためだな、熱が出るのは菌やウイルスを弱体化させながらそれらと戦う白血球を活発にするため、倦怠感が出るのは横にならせてできる限り重力の影響を受けずに全身に白血球が動きやすくするため、といった考え方になってくるのです。
「身体を温かくしていっぱい汗かいたら熱は下がる」ということを聞いたことがあると思いますが、まさに身体がやろうとしていることをサポートする方法、つまり熱を高く保つことでウイルス・菌VS白血球の勝負において、白血球が有利な状況を作り出しているということなのです。
症状がピークを迎えているときは身体が最高の状態で治そうとしているときなのであり、解熱剤を飲んだり、無理に身体を動かそうとしたりすると、白血球が何かを犠牲にしなければならなくなります。
これが自然治癒の考え方です。
原因思考と目的思考では全然違う結果になるということは一目瞭然ですよね。
症状を緩和させる(身体機能がやろうとしていることをブロックする)西洋医学に対して、症状を見守る(身体機能がやろうとしていることを受け入れる)自然治癒といったように、全く逆のアプローチなのです。
もちろん西洋医学は体力の消耗を抑制してくれたり、身体への致命的なダメージを回避させてくれたりするので、西洋医学と自然治癒のどちらが正しいという判断はできません。
しかし、現代社会では原因思考に偏りすぎており、目的思考が発揮される機会があまりにも少なくなっています。
「何のために」という目的思考、未来思考でモノを捉えれば、これまでにないものの見方を手に入れることができるのです。
「原因思考」と「目的思考」のバランスを大切にしよう!
今回は「原因思考」と「目的思考」についてご紹介してきました。
「原因思考」と「目的思考」を分けるのは、その答えではなく、その「問いかけ」にあるということです。
人は誰しもモノを考えるときには、セルフトーク(自分の心の中での会話)を行うものです。
正しい答えを導き出すには、何よりもまず「正しい問いかけ」をしなければなりません。
「なぜ」と問いかければ「~だから」という答えが出てきますし、「何を目的に」と問いかければ「~を目的として」という答えが出てくるのです。
原因思考だけではなく、目的思考を意識して取り入れることで、新たなモノの見方を手に入れましょう。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。