おうちトレーニングのすゝめ(実践編)

前回はおうちトレーニングをより充実させたものにするため、「おうちトレーニングのすゝめ(理論編)」についてお話ししました。
今回は、実践編としておうちトレーニング計画、プログラムの作成方法についてご紹介します。

☆トレーニングプログラム1~ニードアナリシス~☆

ニードアナリシス、つまりあなたがトレーニングに何を求めるかを分析するということです。

前回「トレーニング後の将来像を描く(目標設定)」のところで紹介しましたが、一般的に筋トレと言われるトレーニングでは、

①筋肥大:筋肉を大きくし、徐脂肪体重(脂肪以外の体重)の増加、体脂肪率の低下に役立つ。
②筋力:日常生活における様々な身体機能向上に役立つ。
③筋パワー:スピードや跳躍力を伸ばすなど、競技特有の動作向上に役立つ。
④筋持久力:筋肉の持久力・スタミナをつけ、最大下のレベルでできるだけ多くの反復回数もしくは長時間運動を行う筋の能力を高めることに役立つ。

が目標となります。

なお、筋力は大きい負荷のトレーニングを行うため中級者向け、筋パワーは一定の筋力を前提としてトレーニングすることでスピードやジャンプの能力をさらに大きく向上させることができるため上級者向けの目標になります。

そのため、どのような能力を伸ばすことを目標としても、まずは筋肥大か筋持久力を鍛えるプログラムに着手する方が良いでしょう。

☆トレーニングプログラム2~エクササイズの選択~☆

あなたの目標を決めたら、次にどのようなトレーニングを行うのか具体的に決めていきます。

これを決めるうえで、自宅で利用できるトレーニング器具はもちろんのこと、トレーニングに割くことのできる時間も忘れずに考慮する必要があります。

なぜならトレーニング時間は、回数や難易度といったトレーニングメニューに直接的に影響を与えるからです。

例えば、大腿四頭筋やハムストリングスを鍛える場合、レッグカールやレッグエクステンションを行うよりも、バックスクワットの方がずっと短時間でトレーニング効果を得ることができます。

どのエクササイズを行うかの選択にあたっては、2種類のエクササイズを覚えておくといいでしょう。

①コアエクササイズ:多関節エクササイズ(2つ以上の関節が連動する運動)で、大きい筋肉が動員されることが特徴。

②補助エクササイズ:単関節エクササイズ(1つの関節が関与する運動)で、小さい筋肉(1つの小さな筋群または部位)が動員されることが特徴。傷害予防に役立ち、また傷害からの回復を促進するエクササイズでもある。

コアエクササイズ1種目を行えば、補助エクササイズを4~8種類行うのと同等の筋肉を活動させることができるとも言われています。

では、コアエクササイズだけやっていればいいのか、というとそうではありません。

コアエクササイズはその効果が大きい反面、複数の部位を連動させる必要があるので、トレーニングテクニックが必要になります。

初級者の場合は、基本的なコアエクササイズと補助エクササイズを取り入れて行うべきです。

基本的なコアエクササイズは、トレーニング全体の代謝を増加させることができます。

補助エクササイズでは、特定の部位に的を絞り、それぞれの部位について1種目のエクササイズを選択します。

トレーニングの経験がなければ正確なテクニックやフォームを確認したうえで実践し、適切に実施できるようになるまで習熟期間を設けるようにしましょう。

☆トレーニングプログラム3~トレーニングの頻度~☆

次は、トレーニング頻度を決定します。

一般的にトレーニング頻度が高ければ、筋力が向上しやすいということは想像にたやすいでしょう。

では、なぜ頻度が重要になってくるかというと、トレーニング後に超回復というリカバリー期間を設けなければ十分な効果が得られない、逆に期間を空けすぎてしまうとせっかく得たトレーニング効果が失われてしまうことになるからです。

同じ筋肉の部位を使ったトレーニングは、最低でも中1日を取るようにして、最大でも中3日までの休息期間とするのがいいでしょう。

初級者は週2~3回、中級者は週3~4回、上級者は週4~6回が目安になります。

具体的な頻度は、トレーニング内容に左右されることはさることながら、お仕事などで身体的な負荷がかかるような動きを伴うようであれば、そのようなことも総合的に考慮して決定する必要があります。

トレーニング経験が少ない場合、またお仕事などによる身体的ストレス・心理的ストレスが多い場合などは、トレーニング頻度は少なめに設定してもいいでしょう。

大事なことは、トレーニング日が連続しないようにして、十分な回復期間をとることです。

ただし、スプリットルーティンという方法があり、特定の部位を鍛えることを目的としたトレーニングに限って行う方法をとって、トレーニング日を連続させることがあります。

SNSのトレーニング女子が「今日は上半身の日」「今日は下半身の日」といった投稿をご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれません。

このように上半身、下半身と分けてトレーニングを行えば、たとえトレーニング日が連続していても、十分な回復期間をとることができます。

ただし、このようなテクニックはある程度トレーニング経験があり、そのトレーニングがどの筋肉を鍛えているのか理解している方が取り入れるべき方法です。

今回は、普段運動習慣のない初級者向けであることを前提に進めていきます。

(筋パワーは上級者向けになるため、以下説明は省略します。)

☆トレーニングプログラム4~トレーニングの順序~☆

次は、実際に行うエクササイズをどの順番で行うのか検討します。

この順番にはいくつかパターンがありますが、主なものは以下のようなものがあります。

・優先度順:設定した目標や鍛えたい機能に対して、優先度の高いものから順番に行う方法。
・種類順:疲労が蓄積されないうちにコアエクササイズを行い、補助エクササイズへ移行していく方法。
・動作順:「押す」エクササイズと「引く」エクササイズを交互に行う方法。
・部位順:上半身のエクササイズと下半身のエクササイズを交互に行う方法。

また、上記を複数組み合わせて行う方法などもあります。

初級者であれば種類順、つまり大きい筋肉を動かすコアエクササイズをしてから、小さい筋肉(特定の筋肉部位)を動かす補助エクササイズを行う順序にするのがおすすめです。

☆トレーニングプログラム5~トレーニング負荷と回数(レプス)~☆

次は、負荷と回数について決定していきます。

前回「自分の現在地を知る(テスト~評価)」のところで、1RM(Repetition Maximum;1回だけ繰り返してできる負荷強度)という指標をご紹介しました。

この指標を測定、推定するのは専門的な知識を要するため、おうちトレーニングではあくまで目安にしてください。

低負荷で反復回数を多くするトレーニングは、筋持久力の向上に役立ちます。

逆に高負荷で反復回数を少なくするトレーニングは、筋力の向上に役立ちます。

ここで注意したいのは、いずれの場合も失敗する限界まで行うと、オーバートレーニングやケガのリスクを高めてしまうなど逆効果になってしまいます。

そのため、初級者の方は以下の負荷・回数を目安にしてみましょう。

・筋持久力:最大15回以上できる負荷・10~15回
・筋肥大:最大8~12回できる負荷・8~12回
・筋力:11回以下しかできない負荷:6回以内

自重で行う場合、どのように負荷を調整するのか悩むかもしれません。

ときどきお子さんを抱っこしたり、背中に乗せたりして負荷を重くしている方を見かけますが、正しいフォームを維持することが難しいためおすすめしません。

例えばシットアップ(腕立て伏せ)であれば、膝をつく、膝のつく位置を少しずつ後ろにずらす、通常のシットアップ、ソファーやいすに足をのせて前傾姿勢をとる、といったように負荷を調整することが可能です。

あくまでも正しいフォームを維持できるということを大前提に、負荷の調整を検討してみましょう。

☆トレーニングプログラム6~量(負荷×回数×セット数)~☆

さて、負荷と回数が決まったら、次は何セット行うかが大切になります。

この点については、おおむね1~3セットで行うのが良いでしょう。

とりわけトレーニングをほとんど行っていなくて、これから始めようという方は1セットを正確なテクニック・フォームで行う方が効果を得られるでしょう。

そして、徐々に慣れてきたら、少しずつ増やしていくのです。

筋持久力:反復回数を多くして(各セット10回以上にして)トレーニングに慣れてきたらセット数を増やす。
筋肥大:トレーニング量を多くして(6~12回)、トレーニングに慣れてきたら負荷をより重くする。
筋力:コアエクササイズは6回以下の少ない反復回数で複数セット(3セット以上)

補助エクササイズは8回以上で1~3セット

このように負荷、回数、セット数が決まると、トレーニング量がわかります。

トレーニングに慣れるとともに、このトレーニング量も大きくするように計画を立てていきましょう。

☆トレーニングプログラム7~休息時間~☆

さあ、残すはセット間の休息時間をどれくらいにするのかです。

前回もご紹介しましたが、

・筋持久力:30秒以下
・筋肥大:30秒~1分30秒
・筋力:2分~5分

上記の時間が目安になります。

トレーニングを始めて間もないころであれば、適切なテクニックで正確なエクササイズを行うことができる状態まで十分回復させる必要があります。

そのためセット間やエクササイズ間の休息は、上記の目安より長い時間が必要になるでしょう。

もっとも大切なことは、しっかりとしたフォームで行うこと。

そうしなければ健康的な身体を手に入れるためにトレーニングをしているのもかかわらず、ケガのリスクを高めてしまうことになりかねません。

指導してくれるトレーナーがいないおうちトレーニングだからこそ、くれぐれも無理のない範囲でトレーニングを行いましょう。

☆まずはトレーニングの習慣を身につけよう☆

今回は、トレーニング計画の立て方についてお話ししてきました。

一般的には、筋持久力または筋肥大のいずれかに近々の目標にスタートさせるべきと言われています。

おおむね1か月程度トレーニングを継続していると、その効果が見えづらくなってくると思います。

そのため、筋持久力や筋肥大のトレーニングから筋力を目的としたトレーニングに移行すべきときがやってきます。

その筋力を目的としてトレーニングを2~5週間程度行った後、より競技性の高い能力である筋パワーへと移行するのか、また筋持久力や筋肥大に戻るのかを選択するのがよいでしょう。

このようにすることでトレーニング効果の停滞、あるいはオーバートレーニングを回避することができます。

これは以前もお話させていただきましたが、大切なことなので改めてお話しします。

それは目標を大きく、初動を小さくということです。

トレーニングを始めると翌日、翌々日にやってくる筋肉痛でトレーニング効果を実感する人もいます。

しかし、その筋肉痛が2日、3日経ってもトレーニングできるまでに回復しない場合、それはオーバートレーニングの可能性が高いでしょう。

適切なテクニック、正確なフォームのトレーニングで、おうちトレーニングを充実したものにしていきましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考>
・ジャレッド・W・コバーン/モー・H・マレク編、NSCAパーソナルトレーナーのための基礎知識(第2版)、NSCAジャパン、2013
・特定非営利活動法人NSCAジャパン編、ストレングス&コンディショニングⅠ、大修館書店、2003