SDGsから考える健康

近年、日常生活においてSDGsという言葉を見聞きする機会が増えてきました。
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2030年までに持続可能な開発を達成するために、国連で採択された17項目からなる国際的な目標です。日本に住む私たちにとって国際的な問題というと、直近では新型コロナウイルス感染症のパンデミック、あるいは大規模な自然災害や地球温暖化が一番実感しやすいでしょうか。
しかし、世界では貧困、紛争、感染症など、日本ではあまりなじみのないたくさんの問題を抱えているのが現状です。「誰一人取り残さない」、今を生きる私たちだけではなく将来を担う人たちのため、持続可能な世の中であるために取り組むべき目標、それがSDGsなのです。 そこで今回は、SDGsから健康について考え、日頃どのように取り組んだらいいのかについてご紹介したいと思います。




SDGs目標3と健康の関係


SDGsと健康の関係を考えると、真っ先に出てくるのが、目標3「すべての人に健康と福祉を」です。「すべての人に健康と福祉を」という目標は、SDGsの中で世界中の人々が健康で充実した生活を送る権利を確保することを目指しています。日本国憲法にも、第25条(生存権)では、「第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」、「第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とし、日本国民の健康や福祉を確保する国の責務が定められています。
このような人々の権利を確保するために国際社会が一体となって取り組み、健康格差の解消と質の高い医療サービスへの普遍的なアクセスを実現しようとするのが目標3です。

「すべての人に健康と福祉を」という目標は、1~9の達成目標とa~dの実現方法、計13のターゲットで構成されていますが、簡潔に説明すると以下のような観点で構成されています。


感染症の予防と対策

世界三大感染症と呼ばれるエイズ、マラリア、結核をはじめとした感染症の蔓延を防ぐための取り組みです。これらの感染症によって世界では年間250万人以上が命を落としていると言います。
日本ではなかなか実感しづらいかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症の爆発的な感染者拡大により、医療従事者や病床が足りず医療サービスを受けたくても受けられない状況に陥ったことは記憶に新しいのではないでしょうか。 予防接種や感染症対策、感染症の早期発見・治療などを通して、パンデミックのリスクを軽減し、感染症に苦しむ人々を減らしていくための取り組みが必要なのです。


母子の健康状態の向上

安全な出産環境の提供、母子の栄養改善、周産期医療の向上など、母子の健康を向上させる取り組みです。世界ではこのような取り組みがまだまだ行き届いていない状況であり、5歳未満の子どもたちが年間500万人以上命を落としていると推定されています。 比較的軽症である病気が重篤化してしまうことも少なくないことから、母子の健康を向上させるための取り組みが必要なのです。


栄養状態の改善

バランスのとれた栄養摂取の重要性を強調し、栄養失調の解消、栄養に関する教育の質の向上を通して健康的な生活を促進する取り組みです。これまでの健康記事でもご紹介してきた通り、バランスのとれた栄養を摂取することは健康的な生活を送るために重要であり、特に成長期の子供や乳幼児、妊娠中の女性にとっては不可欠なものです。 食糧不足で飢餓に苦しむ人々をいかにして救うかも含め、栄養の問題に取り組んでいく必要があるのです。


精神衛生の促進

ストレスや精神疾患の軽減を図り、精神的な健康を促進することで、人々の幸福度を向上させイキイキとした社会を築くための取り組みです。日本では、15~34歳の若年層の死因のトップが自殺であり、世界的に見ても非常に深刻な状況にあります。また、ストレスや将来への絶望から凶悪犯罪に走るような事件も思い当たるところがあるのではないでしょうか。 以前の記事でもご紹介したように、健康には身体的な健康だけではなく、精神的健康、社会的健康も欠かせず、それらの良好な状態を保つための取り組みも大切なのです。


普遍的な医療サービスへのアクセス向上

経済的、地理的な障壁を乗り越えて、高品質で手頃な医療サービスをあらゆる人々に提供するための取り組みです。お金がなくて適切な医療サービスを受けられない、陸の孤島で医療サービスを受けられないといったことをなくしていくことが、健康格差の解消と持続可能な開発の基盤となるのです。このように目標3を達成するためには、多岐にわたる取り組みが必要になってきます。 SDGs目標3の達成は、世界の持続可能な発展と人々の健康と幸福の向上に不可欠な要素なのです。




その他のSDGsと健康


SDGsと健康は、目標3だけが関係しているかと言えば、決してそうではありません。健康はその他のSDGsとも密接にかかわっているのです。以下に、それぞれの目標と健康がどのように関係するのか簡潔に説明しましょう。


目標1:貧困をなくそう

「貧困」は健康に直接的、間接的に影響します。
貧困は単にお金がないということだけではなく、十分な栄養を摂取できない、教育や医療などの社会的なサービスを受けられないなど、様々な形でその影響が出てきます。発展途上国においては、5人に1人が一日1ドル25セント(≒185円)未満で生活している「極度の貧困」状態にあるとされています。貧困をなくすことで、十分な栄養を摂取できること、病気になったときに適切な医療サービスを受けられることにつながり、健康的な生活を送れるようになるのです。


目標2:飢餓をゼロに

「飢餓」は、言うまでもなく栄養失調や様々な健康問題を引き起こします。
必須アミノ酸のように、生きていく上で必要な栄養素であっても、私たちの体内で合成できないものがあります。このような体内で合成できないものは、食事などを通して外から摂取するしかありません。
飢餓は、必要な栄養素を体内に取り込むことができないため、免疫機能や生体機能に支障をきたして、健康を害することになってしまうのです。


目標3:すべての人に健康と福祉を

目標3については、先にご紹介した通りです。


目標4:質の高い教育をみんなに

「教育」は、健康にとって非常に大切なものです。
正しい健康知識や健康的な生活習慣は、教育によって手にすることができるからです。日本では、小学生の頃から保健体育の授業で、正しい健康知識の習得に取り組んでいますよね。近年その重要性が叫ばれている性教育も、望まない妊娠を避けたり、性感染症の蔓延を防いだりするために、大きな役割を担っています。すべての人々にとって、教育がとても大切なのです。


目標5:ジェンダー平等を実現しよう

ジェンダー平等の達成は、特に女性の健康にとって重要なものです。
日本でも数年前、大学医学部受験において女性の点数を一律減点するという問題が取り上げられましたが、世界では女性を学校に通わせる必要がないという国や地域が未だにあるのです。ジェンダー平等を実現することで、特に女性が生きやすい世の中、心身の健康と安全を守ることができるのです。


目標6:安全な水とトイレを世界中に

安全な水やトイレ、つまり衛生的な環境は感染症予防などの観点から重要です。
日本では水道水も飲むことができますが、海外旅行などで海外に滞在したことがある方は、水道水は飲めない、衛生状態が悪いトイレなどの状況を経験したことがあるのではないでしょうか。清潔な水やトイレなどの環境が、感染症やその他の健康問題を防いでくれるのです。


目標7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに

私たちの生活に欠かせないエネルギーですが、よりクリーンなエネルギーが求められています。
日本でも東日本大震災による福島原発事故で、放射性物質による健康被害が懸念されたのは記憶に新しいのではないでしょうか。また石炭やバイオマスによるエネルギーもしっかりとした設備がなければ、空気汚染を引き起こし、呼吸器疾患や肺がんなどのリスクが高まってしまいます。
生活に欠かせないエネルギーだからこそ、持続可能でクリーンなエネルギーが必要なのです。


目標8:働きがいも経済成長も

労働生産性が低いと言われる日本ですが、仕事に働きがいを見い出せず、ただ仕事と自宅の往復で1日を終えるような生活を送っていたらどうなるでしょうか。ストレスや精神的疲弊を抱え、心身の健康を害してしまいますよね。働きがいや安定した雇用環境、労働に見合った労働条件は、このようなストレスフルな毎日から解放してくれるのです。


目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう

産業や技術革新のインフラが整えば、そこに住む人々の生活水準を引き上げてくれます。
テレメディシンやテレヘルスなどの技術は、遠隔地の人々に適切な医療サービスを提供することに役立ちます。いつでも、どこでも医療サービスなどを受けられるようなインフラが整えば、多くの人々が健康的な生活を送ることができるようになるでしょう。


目標10:人や国の不平等をなくそう

人や国の不平等は、健康格差を引き起こします。
新型コロナウイルス感染症のワクチンも国家間で争奪戦になったのは記憶に新しいと思います。お金をたくさん持っている人や国だけが、高度な医療サービス、機会や資源にアクセスできるのではなく、平等にしていくことが求められているのです。


目標11:住み続けられるまちづくりを

健康的な都市計画、安全かつ安価な住宅、基本的サービスへのアクセスを確保することが、健康を向上させる重要な要素となります。地震の発生が多い日本では、災害に強いまちづくりも大切になってくるでしょう。


目標12:つくる責任つかう責任

産業革命以降、大量生産が大量消費を可能にした一方で、大量廃棄という問題を引き起こしてしまいました。大量生産の過程で発生する有害な物質、大量消費をした後の大量廃棄などが、深刻な環境破壊・環境汚染を引き起こしているのです。このような環境破壊・環境汚染が、酸性雨という形で私たちに降り注いだり、食べ物に有害物質が蓄積したりして、私たちに健康被害をきたしてしまうのです。


目標13:気候変動に具体的な対策を

気候変動も健康にとって大きな影響をもたらします。
毎年のように異常気象とされるような夏の猛暑に見舞われている日本では熱中症のリスクが高くなります。また寒暖差の大きい気候で体調を崩してしまう人も少なくないはずです。


目標14:海の豊かさを守ろう

昨年原発処理水の海洋放出について、中国が猛反発をしましたが、その大きな理由の一つが海洋汚染の懸念があるからです。海洋汚染は、海の生態系に影響を与えたり、私たちが食べる海産物に汚染物質が蓄積したりするなど、顕著な健康被害をきたす可能性があります。(なお、日本の原発処理水の海洋放出により放射性物質の規制基準値を超えるなどの影響は出ておらず、継続したモニタリングなど適切な措置が講じられています。)


目標15:陸の豊かさも守ろう

海の豊かさが欠かせないのと同様に、陸の豊かさも欠かせないものです。
陸の生態系を維持していくことが、私たちの食料供給や自然災害のリスク軽減に役立っているのです。環境破壊や生物多様性を失うことは、健康問題を引き起こしてしまうのです。


目標16:平和と公正をすべての人に

ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの戦闘など、紛争や暴力は直接人々の命や健康を奪い、医療サービスの提供も困難にしてしまいます。
また、紛争や暴力をきっかけに心理的なストレスやPTSDなどの健康問題を引き起こすことも少なくありません。平和で平穏な社会が世界中すべての人々に必要なのです。


目標17:パートナーシップで目標を達成しよう

SDGsのような国際的な目標は、やはり各国のパートナーシップが欠かせません。同じ地球に住む人々が一体となって諸々の問題、健康問題に取り組んでいかなければならないのです。

以上のように、SDGsと健康は、あらゆる面で関係しているのです。




私たちがSDGs達成のためにできること


ここまで見てきて、国をはじめとした公共機関や大企業が取り組むようなことが大切であり、私たち個人でできることはないのではないか、と思った方もいるかもしれません。しかし、私たち一人ひとりの意識、取り組みがSDGsの達成には不可欠です。以下のようなアイデアやヒントをもとに、具体的な行動を起こしてみましょう。


健康的な生活習慣を身につける

・適度な運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠を心掛ける。
・アルコールやたばこをほどほどにする。
・ストレスマネジメントやリラックス法を実践する。


食生活を持続可能なものにする

・地場産の食材や季節の野菜を積極的に取り入れる。
・フードロスを最小限に抑え、食材を無駄にしない(セール品につられて必要以上に買わない)。
・エコバッグを利用したり、プラスチック削減に取り組む商品・製品を選択したりするなど、環境に配慮した購買活動を行う。

公共交通や自転車を利用する

・自家用車よりもできる限り公共交通機関や自転車を利用する。
・徒歩・自転車通勤を取り入れて、運動する習慣を身につける。


3R(リデュース、リユース、リサイクル)に取り組む

・ごみの分別やリサイクルを積極的に行い、廃棄するものを減らす。
・フリマアプリを利用したり、寄付・リユースしたりして、モノを無駄にしない。


ボランティア活動へ参加する

・地域の清掃活動や環境保全活動に参加する。
・子どもや高齢者、障がい者などの支援活動に参加する。


SDGsの知識・意識を向上させる

・SDGsや健康に関して学び、家族や友人、地域の人々と共有する。
・イベントやセミナーに参加して、持続可能な生活や健康についての知識や理解を深める。

このように、私たち一人ひとりの行動が小さな変化から大きな影響を生み出し、持続可能な社会を実現することにつながっていくのです。




SDGs達成のために日頃の習慣を見直そう


元メジャーリーガーの松井秀喜さんは、アメリカの心理学者ウィリアム・ジェイムズの言葉「心が変われば行動が変わる、行動が変われば習慣が変わる、習慣が変われば人格が変わる、人格が変われば運命が変わる」を座右の銘にしていました。同じく元メジャーリーガーのイチローさんは「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところに行くただ一つの道」だという名言を残しています。日頃の心がけ、小さなこと一つひとつを積み重ねることが、巡り巡って運命を大きく変えていくのです。
まずは、私たちができる小さなことから始めてみましょう。それがいずれSDGsの達成に大きく寄与することにつながっていくのです。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考文献>

・日能研教務部、「国連 世界の未来を変えるための17の目標 SDGs 2030年までのゴール」、みくに出版、2017年
・大原佳央里、梅木和宣、「SDG3に関する国際社会の動向と日本の取組」保健医療科学70 巻 (2021) 3 号、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jniph/70/3/70_216/_pdf/-char/ja 、2024年1月26日閲覧
・三浦宏子、「わが国の自治体における健康づくり対策を基盤としたSDGs推進プログラム」保健医療科学68巻 (2019) 5号、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jniph/68/5/68_380/_pdf/-char/ja 、2024年1月26日閲覧