おうちトレーニングのすゝめ(理論編)
首都圏を中心に再度発令されている緊急事態宣言。
英国で猛威をふるう変異種も日本で確認されるなど、新型コロナウイルス感染症に係る状況はさらに厳しくなっています。
終日不要不急の外出自粛要請が出され、今まで以上に感染に気をつけ、自宅で過ごす方も増えてきているのではないでしょうか。
昨年の緊急事態宣言下では、自宅時間が増え社会との接点が希薄になったことによって精神的に落ち込んでしまったり、身体機能が衰えたりといった健康二次被害が多数報告される事態になりました。
心を健康に保つことの重要性は以前の記事でもお話ししましたが、やはり心と身体の健康は切っても切り離せないものです。
心身ともに健康でありたい、身体を動かしてリフレッシュしたい、コロナ太りは避けたいと思っている方も多いと思います。
そこで今回は、おうちトレーニングをより充実したものにするため、そのポイントについてお話しします。
トレーニングを知る
さて、あなたはトレーニングをするとき、まず何から始めますか?
痩せたいからランニングとかウォーキングとか有酸素運動をしよう、とりあえずジムに行って置いてある器具を使って身体を動かそう…このように考えていませんか?
言うまでもなく自己流で始めてしまうと、とても非効率なトレーニングになってしまいます。
またそれだけではなく身体のバランスを崩してしまい、姿勢が悪くなってしまったり、慢性的な腰の痛みが生じたりといったことも起こり得るのです。
どうせトレーニングするなら効率的に、しかも効果を実感したいですよね。
良かれと思ってトレーニングしたのに、身体を壊してしまうようなことはしたくないですよね。
それでは、どのようにしてトレーニングを始めたら良いのでしょうか?
ストレングス&コンディショニングに関する国際的な教育団体であるNational Strength and Conditioning Association(NSCA)では、トレーニングのプログラムは、
1.テスト(測定)
2.評価
3.目標設定
4.プログラム作成
5.実行・修正
の順序で進めるのが望ましいとしています。
過去・現在を分析して、なりたい理想像を描く、そして現在地から理想像への道筋を明らかにして実行に移す。
夢や目標の実現へと導くコーチングの技法と良く似ていますよね。
それでは、それぞれについて見ていきましょう。
自分の現在地を知る(テスト~評価)
テストと評価は、言わば現状分析です。
今あなたがどれくらいの筋力を持っているのか、どれくらいの筋力バランスを持っているのかなど、テストを通して分析します。
テストでは1RM(Repetition Maximum)、つまり「1回だけ繰り返してできる負荷強度」を測定・推定します。
しかし、このようなテストはダンベルやバーベルをはじめとしたトレーニング器具の利用を前提としているので、おうちトレーニングで厳密に行うことは難しいと思います。
そのため、おうちトレーニングでは自重で行って最大で何回できるかをテストして、あなたの現状を把握するのが良いでしょう。
参考までに、1RMに対する%と回数の関係をご覧ください。
% | 100 | 95 | 93 | 90 | 87 | 85 | 83 | 80 | 77 | 75 | 70 | 67 | 65 | 60 |
回 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 15 | 20 |
例えば、腕立て伏せをしてみたところ、最大で続けて10回までできた(この場合10RMと言います。)とします。
すると1RMに対して75%の強度であることが推定できるので、25%強度を上げると1RMになるということになります。
やや専門的な話になりましたが、なぜこのように現在地を知ることが大切かと言うと、適切な負荷強度を決めなければならないからです。
例えば、30回腹筋できる人が、トレーニングで5回だけ腹筋をやって効果が得られるでしょうか。
逆に10回しか腕立て伏せができない人が、1日のうちに100回も腕立て伏せをしたらその分だけ効果が得られるでしょうか。
どちらの場合も十分な効果は得られないのです。
トレーニング効果のカギを握るのが“超回復”と呼ばれるものです。
超回復とは、傷ついた筋肉が修復される際に以前より向上した機能を得られるという事象を指します。
つまり強度が弱すぎると筋肉に負荷を与えられず機能向上を期待できない、逆に強度が強すぎると筋肉へのダメージが大きくなり修復までに時間がかかりすぎてしまう、あるいはケガにつながってしまうのです。
またトレーニングをしようと決意して、初日にたくさんの回数をこなした結果、翌日、翌々日にひどい筋肉痛がきて、治るのを待っているうちにトレーニングへの熱が冷めてしまった、このような経験のある人も多いのではないでしょうか。
トレーニングの習慣を手に入れるためにも適切な負荷を設定することが大切なのです。
おうちトレーニングでもこのような指標を参考にしてみましょう。
トレーニング後の将来像を描く(目標設定)
さて、現状分析ができたら、いよいよ目標設定です。
実は、この目標設定ができていないことが少なくないのです。
例えば、「痩せたい」「体重を落としたい」という”目標”を立てたとします。
単純に痩せること、体重を落とすことが目標なのであれば、基礎代謝相当の食事をしてベッドで寝たまま1日を過ごせば、筋萎縮によって体重を落とすことができます。
果たしてこれで目標を達成した、という達成感を得られる人はいるでしょうか?
きっといないですよね。
つまり「痩せたい」「体重を落としたい」という”目標”の裏には、もっと別の本当の目標が存在しているはずなのです。
そのため「体重」だけを目標達成の指標に設定していると、大切なものを見落とすことになってしまうのです。
いかに目標設定が大切か、ということですね。
一般に筋トレと言われるトレーニングでは、
①筋肥大:筋肉を大きくする
②筋力:日常生活における様々な身体機能向上
③筋パワー:スピードや跳躍力を伸ばす
④筋持久力:筋肉の持久力・スタミナをつける
の4つが目標となりプログラムを作成します。
もちろんどのようなトレーニングであっても、何もやらないよりは4つの能力を伸ばすことは間違いありませんが、その効率が変わってきてしまいます。
よく女性から引き締まった身体にしたいけど筋肉を大きくしたくない、という声が聞かれますが、その場合は筋肥大ではなく筋持久力を目標に設定してトレーニングを行えば良いでしょう。
あなたがトレーニングを通して、どのような結果を得たいのか?
自分自身と対話して、あなたが本当になりたい姿を突き詰めて考えてみましょう。
理想像を実現するための計画を立てる(プログラム作成)
目標設定ができたら、その目標を達成するための具体的なトレーニング計画を立てます。
トレーニングをやるとき、何をやるか、何回何セットやるかまでは決めても、セット間の休息時間をどうするか、トレーニングの順番をどうするか、どれくらいの頻度で行うか、身体が慣れてきたら負荷強度をどのように上げていくかといったことまで決めることは少ないのではないでしょうか。
実は、トレーニングの質を左右する要素は複数あり、先程挙げたNSCAでは、
1.ニードアナリシス
2.エクササイズの選択
3.トレーニングの頻度
4.トレーニングの順序
5.トレーニング負荷と回数(レプス)
6.量(負荷×回数×セット数)
7.休息時間
の7つをトレーニング変数として紹介しています。
例えば、セット間の休息時間については、
・筋肥大:30秒~1分30秒
・筋力:2分~5分
・筋パワー:2分~5分
・筋持久力:30秒以下
といったように、目標によってやり方を変えます。
では、あなたが設定した目標を達成するにはどのようなプログラムを作成したら良いか。
この点については、次回で詳細にご紹介しますので、楽しみしていてください。
トレーニングを始めて最適化する(実行・修正)
さて、目標へのマイルストーンを作成できたら、あとは実行に移しましょう。
実行に移してみて、負荷強度が弱いな、あるいは負荷強度が強いなといったように感じたときは、適宜プログラムに修正を加えて、より自分に合ったものに更新していくことが大切です。
計画を立て(Plan)、実行に移し(Do)、評価して(Check)、改善する(Act)、いわゆるPDCAサイクルがここでも使えます。
そして実行に当たっては、トレーニングのフォームがとても重要です。
例えば、腕立て伏せと言っても、手のつく位置を狭くすれば上腕二頭筋に効き、広くすれば大胸筋に効きます。
またスクワットをする際に、ニーイントゥーアウト(膝が内側に入り、つま先が外側を向く状態)になっていると、膝を痛めてしまうこともあります。
今ではYouTubeのような動画サイトでも、トレーニングフォームを解説している動画がたくさんありますので、より効果を高めるため、ケガのリスクを取り除くためにも、トレーニングの正しいやり方を把握するようにしましょう。
鏡を見たり、トレーニングの様子をビデオで撮ったりして、正しいフォームでできているかをしっかり確認すること、あるいは鍛えたい部位の筋肉に力が入っているかを意識することも効果的です。
正しいフォームで自分に合ったトレーニング方法を取り入れるようブラッシュアップしていきましょう。
大きな目標を描いて小さく始める
新年を迎えて、今年の目標を立てた人も多いと思います。
しかし、新年の目標は達成されることなく一年が過ぎる、ということを経験したことのある人も多いと思います。
その原因は、大きな目標を立てて、大きくスタートを切ってしまうことにあります。
以前の記事でもお話ししましたが、人間にはホメオスタシス(恒常性維持機能)が備わっていて、急激な変化が生じるとそれと同等以上に急激に元に戻そうという力が働きます。
ダイエットの失敗であるリバウンドがその典型です。
このホメオスタシスの作用を受けないようするためには、脳が変化であると認識できないくらい小さく変化し始めることが必要です。
大きな夢を描いて、小さく始める。
このことを心に留めて、スタートを切るようにしましょう。
一年後の自分を楽しみに。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
・ジャレッド・W・コバーン/モー・H・マレク編、NSCAパーソナルトレーナーのための基礎知識(第2版)、NSCAジャパン、2013
・特定非営利活動法人NSCAジャパン編、ストレングス&コンディショニングⅠ、大修館書店、2003