2025年、今改めて“ウェルビーイング”について考える


いよいよ2025年がスタートしました。
あなたは、新年の抱負の成就に向けた取り組みを始め、そして順調に継続できているでしょうか。

2025年は、スポーツ庁がスポーツ市場規模を15兆円まで拡大するとしたリミットの年。
そのような意味でも、スポーツや健康の分野にとって、2025年はひとつ節目の年になるでしょう。
先日、アメリカ大統領に就任したトランプ大統領が、アメリカがWHO(世界保健機関)から脱退する旨の大統領令に署名し、話題を呼びました。

新型コロナウイルス禍以降、特に話題に事欠かないWHOですが、これまでの健康分野記事でも何度かご紹介しているように、WHO憲章において「健康」を次のように定義しています。
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.” ※1
(健康とは、身体的、精神的および社会的に完全に良好な状態であり、単に病気や病弱の存在しないことではない。)

ウェルビーイング(well-being)は、日本でも働き方改革やSDGs推進、新型コロナウイルス感染拡大等を契機として、その用語が一般的に広く普及してきました。
ウェルビーイングとは、「幸福」や「満たされた状態」を意味し、WHOの健康の定義にもあるように単に身体的な健康だけを指すものではなく、精神的や社会的な豊かさを含む、総合的に良好な状態を指します。

ウェルビーイングは身体、精神、社会など、あらゆる側面が調和しているという大切な概念なのです。
そこで今回は、これまでの健康分野記事の総まとめとして、改めて“ウェルビーイング”についてご紹介したいと思います。

ウェルビーイングを実現するための3つの視点

ウェルビーイングについては、以前「健康を司るもう一つの健康~社会的な健康~」という記事で詳しくご紹介させてもらいました。
ウェルビーイングについては、総合的に良好な状態を指すため、様々な解説がなされ、その切り口、方法も多岐にわたります。
今回は、WHOの健康の定義に従い、身体的(physical)、精神的(mental)、社会的(social)ウェルビーイングの3つの視点からご紹介したいと思います。

身体的ウェルビーイング

 身体的ウェルビーイングは、私たちにとって最も身近で理解しやすく、取り組みやすいかもしれません。
身体的ウェルビーイングでカギを握るのが、「運動」「栄養」「休養」の3要素です。

●適度な「運動」は、私たちの身体に大きな恩恵
 特に座り仕事が多くなって長時間座位でいたり、近くのコンビニに行くにも車に乗ったりして、運動不足になっている人は多いと思います。
ランニングやウォーキング、スイミングといった運動はもちろんのこと、おうちトレーニングや入浴後のストレッチなどの家の中でできる運動でも構いません。
まずは、取り組みやすいこと、そして継続してできることから始めてみましょう。

●「栄養」、日々の食生活が重要
 学校の家庭科の授業でも学んだかと思いますが、炭水化物、脂質、たんぱく質、ミネラル、ビタミンの5大栄養素をはじめ、各栄養素にはそれぞれ異なる役割があります。
それゆえバランスのとれた食生活を意識することで、より多くの恩恵を受けることができます。
日本で一般的な栄養学は「欠乏の栄養学」と呼ばれ、厚生労働省が公表している食事摂取基準では、統計的に処理された理論上の数値が示されています。
 一方で昨今日本でも人気になっている、食べ合わせの重要性を説くインドの生命科学「アーユルヴェーダ」、サプリメントによる至適量摂取による治癒効果を説く「オーソモレキュラー(分子整合栄養医学)」など、個体差を考慮した「栄養学」もあります。
このような「栄養学」も取り入れて、「欠乏の栄養学」でカバーできない所に取り組むことも有効です。

●「休養」、とりわけ睡眠も重要
 人によって必要な睡眠時間は異なりますが、睡眠の質は特に大切になります。
以前は午後10時~午前2時が睡眠のゴールデンタイムと言われていましたが、最近では入眠後最初の90分の睡眠の質が睡眠全体の質を決めるという学説が有力になってきています。
寝るときは部屋を真っ暗にする、睡眠直前の1時間はスマホなどの電子機器の利用を避ける、睡眠前に食事や激しい運動をしない等、睡眠の質を高くできるよう工夫してみましょう。
 その他、「空気がなければ3分、水がなければ1週間、食べ物がなければ1か月で死に至る」と言われているように、フレッシュな空気を得るために換気をする、気がついたときに深呼吸をして古い空気を吐き切るといった「空気」、ミネラル分を含んだナチュラルミネラルウォーターを活用する、食事中を避けて食事の30分前、食事の後2時間半以上後、睡眠前にヒマラヤ岩塩などとともに飲むといった「水」についても、意識的に取り組んでみましょう。


精神的ウェルビーイング

 先日、昨年1年間の自殺数は過去2番目に少なくなった一方で、小中高生の数が過去最多となったというニュースが報道されました。
子どもたちが親の価値観の押し付けや過干渉、親の不仲、親に理解してもらえないといった悩みがインターネット掲示板に書き込まれているといいます ※2。

やはり精神的ウェルビーイングを実現する上で、心の中の摩擦、ストレスへの対処は欠かせません。
日々の生活の中で意識的に自分と向き合い、自分の気持ち、心の声と向き合うことが必要です。
あなたも「モチベーションが上がらないな」という経験をしたことがあるのではないでしょうか。
一般的にはモチベーションを維持、向上させることが重要視されますが、その言葉の裏には「やりたくないことをやらなければならない状況」があります。
・一日中ゲームをしていた
・Netflix見ていたら一日が終わっていた という人に対して「モチベーション高いね」と言うでしょうか?

言わないですよね。
それは、やりたいことをやっている状況なのであれば、モチベーションは問題にならないので他にない事、つまりモチベーションは「やりたくないことをやらなければならない状況」だから必要なのです。
そして、「やりたくないことをやらなければならない状況」が続くと心の中で摩擦が生じて、意志力が消耗してしまい、生きる気力を失ってしまいます。
 Apple創業者のスティーブ・ジョブズが「今日が人生最後の日だったら、今やろうとしていることは本当に自分のやりたいことだろうか?」という自問自答を毎朝鏡に向かって行っていたという話は有名ですが、自分の心の声と向き合うことはとても大事なことなのです。
だからこそ、自分の感情や欲求に正直になり、無理をしすぎず、自分に合った選択をすることが大切です。

また、「いま、ここ」の感覚を大事にすること、過去の後悔や未来の不安にとらわれるのではなく、今この瞬間に意識を向けることで、心の安定を保つことができます。
大谷翔平選手が心酔するとされている中村天風氏は、「過去は及ばず、未来は知れず。死んでからのことは、宗教にまかせろ」という言葉を残しています。
 一度きりの人生なのだから、今このときだけを考えて生きていくことの重要性を説いた言葉です。
中村天風氏は、心身統一法という「心と体を積極化することで人間が本来持っている「潜在勢力」を引き出し、幸福で充実した人生を作り上げる」※3 理論・実践論を説いています。
近年では、習い事としてマインドフルネス瞑想やヨガが流行し、“いま、ここ”に集中する方法に取り組んでいる人が増えました。
 もっと手軽に取り組みたい場合は、思考や呼吸を意識しながらウォーキングやストレッチなどの軽い運動を行うことで、心身のバランスを整え、前向きな感情を育むことができます。
精神的ウェルビーイングを実現するためには、ストレスに対処して、自分の心の声としっかりと向き合う習慣を持つことが不可欠です。
運動やマインドフルネス瞑想等を取り入れながら、日々の在り方を見直し、自分の本心と誠実に向き合うことが、充実した人生を送るためのカギとなるのです。

社会的ウェルビーイング

 社会的ウェルビーイングとは、健全な他者とのつながりや社会的な役割を通して、幸福感や満足感を高めることを意味します。
人は一人で生きていくことはできません。
家族や友人、職場、地域社会など、多様な人間関係、コミュニティの中で支え合いながら生きていて、このつながりが人生の質を左右する重要な要素となります。
つまり、他者との良好な関係を築くことが、社会的ウェルビーイングに直接つながっているのです。
インターネット、SNS等の普及によって、以前よりもたくさんの人と簡単につながることができる世の中になりました。
 その一方で、昨今社会問題にもなっているSNS等を通じた誹謗中傷、それを起因とした自殺など、つながりすぎてしまったことの弊害も顕在化しています。
そのようなご時世において、他者との健全な関係性を保つ社会的ウェルビーイングが重要視されるようになっているのです。
「SDGs」「共生社会」といった言葉は、その重要性が訴えられ、広く認知される言葉になってきました。
生まれ育った環境がまったく違う人々の価値観が完全に一致することはあり得ません。
大切なことは、自分と異なる価値観を理解しようと努め、できることならば共感する姿勢を持つことです。
相手の立場になって考えることができるようになれば、きっと相手が何を求めているのかがわかり、自分が何をすればいいのかが自明になるはずです。
 また、社会における自分の役割、自己肯定感を養うには、地域のイベントやボランティア活動などへの参加を通して、地域社会をはじめとしたリアルなつながりを持つことも有効です。
SNSをはじめとしたインターネット上の見えないつながりは、ときに不健全な関係に発展してしまいます。

ストレスや不安を感じたら不健全な関係を断つ、SNSからいったん離れてみる勇気を持ちましょう。
社会との関わり方は、あなたのセルフイメージにも大きな影響を与えます。
他者とのつながりがもたらす安心感や充実感は、日々のストレスや困難を乗り越える力になるのです。
社会的ウェルビーイングを意識しながら、自分にとって大切な人との関係を深め、コミュニティに積極的に関わることで、より豊かで満ち足りた日常生活を送りましょう。



健康への取り組みに終わりはない!

WHOの健康の定義からもわかる通り、ウェルビーイングとは、身体的、精神的、社会的といった様々な側面から成り立っているものです。
そして、これらを補完するような側面もたくさんあります。
例えば、経済的ウェルビーイングは、安心感と自由を手に入れ、人生の選択肢を広げることができます。

 物価高のこのご時世、お金の不安を抱えている人は多いのではないでしょうか。
経済的ウェルビーイングを得るためには、現状を正しく把握し、目標を明確にすることが大切です。
日々の小さな支出を見直し、計画的に貯蓄や投資を進めることで、長期的な安定を築くことができます。

 また、政府が力を入れている「リスキリング」をはじめ、スキルアップや新たな収入源を模索することで、将来の選択肢を増やし、より充実した人生を送るための基盤を整えることができます。
また、環境的ウェルビーイングは、自分自身の心身の健康を整えながら、持続可能な社会の実現にも貢献できます。

身の回りの環境、空間を整えることで、心の安定を得ることができ、自然とのつながりを持つことで、心身のリフレッシュが促されます。
その意味でも、住環境というのはとても大切なものなのです。
今回ご紹介した話を聞いて、ウェルビーイングを難しいと感じた方もいらっしゃるかもしれません。
極論を言えば、ウェルビーイングを実現するカギは「自分を大切にする」、この一言に尽きると思います。

あなたの人生の主人公は、紛れもなく「あなた」なのです。
健康、ウェルビーイングの追究に終わりはありません。
あなたのフィーリングとしっかりと向き合って、まずはやりたいことを始めてみる、そして取り組み続けることができること、方法を模索していきましょう。
きっと素晴らしい人生が待っているはずです。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

<参考文献>
※1 WHO、“WHO remains firmly committed to the principles set out in the preamble to the Constitution”、https://www.who.int/about/governance/constitution、 2025年1月27日閲覧
※2 NHK、“去年の自殺者数 児童・生徒は過去最多に 子ども支援の模索も”
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250129/k10014706581000.html、 2025年1月27日閲覧
※3 中村天風財団、“公益財団法人天風会(中村天風財団)公式サイト”
https://www.tempukai.or.jp/ 、2025年1月27日閲覧