新型コロナウイルス感染症が拡大する中、しばしば有名人の訃報が伝えられ、「命」について考える機会も少なくないのではないでしょうか?
万一コロナに罹ってしまったら自分は大丈夫なのだろうか?
仮にコロナに罹らなかったとして、自分の寿命はあとどれくらいなのだろうか?
命について考えると、不安なことってたくさんありますよね。
次から次へと変異を繰り返すコロナウイルスは、基礎疾患やワクチン接種の有無等の様々な要因で罹患した際の症状に現れ、また変異株の種類によってその毒性も異なるため、自身でコントロールできない部分が多く、罹患しないように基本的な感染対策を講じる以外に手立てがありません。
しかし、あなたの健康寿命を推測し、維持増進することはできるのです。
その鍵を握るのが、「命の回数券」と呼ばれる「テロメア」なのです。
そこで今回は、テロメアでなぜ健康寿命を推測できるのか、いかにして健康寿命を伸ばすことができるのかについて、お話していきたいと思います。
テロメアとは何か?
それでは、「テロメア」とは何でしょうか?
「テロメア(telomere)」は、ギリシア語で「末端」を意味する「telos」と「部分」を意味する(meros)を掛け合わせた言葉です。
その名のとおり、染色体の末端部分のことをテロメアと呼びます。
人間の体は絶えず細胞分裂を繰り返しており、約60兆個の細胞でできています。
しかし、その細胞分裂も加齢とともに回数が少なくなり、やがて限界に達して細胞分裂ができなくなります。
一般的に動物の寿命が長寿であればあるほど細胞分裂が限界に達するまでの回数が多くなるとされています。
言い換えると細胞分裂ができなくなる限界に達すると、細胞は寿命を迎えてしまうのです。
この細胞分裂の限界に大きく関係しているのが、テロメアなのです。
もう少し詳しく説明しましょう
染色体の末端部分で保護する役割を持つテロメアには長さがあり、細胞分裂を繰り返すごとに徐々に短くなっていきます。
そしてある一定程度まで短くなると、それ以上細胞分裂ができなくなるのです。
このことが所以で、テロメアは「命の回数券」と呼ばれます。
テロメアの長さが保たれている限りは細胞分裂を繰り返すことができ、限界回数(テロメアが一定程度短くなった状態)に達すると細胞は寿命を迎えるということですね。
以上のことから、細胞の健康長寿を実現するには、2つの大事なアプローチがあるということに気づくと思います。
それは「いかにテロメアが短くなることを抑制するか」、そして「いかに短くなったテロメアを長くするか」ということです。
この2点を実現できれば、いつまでも若々しく生きることが実現できるのです。
テロメアを短くする原因
それでは、テロメアを短くする原因はどこにあるのでしょうか?
言うまでもなく、細胞分裂を繰り返すたびに短くなるため、加齢が一つの原因であることは間違いありません。
しかし、加齢以外でも、テロメアが短くなることを促進してしまう原因があります。
その主要な原因が、強いストレス、喫煙、肥満などといった生活習慣に関するものです。
これらの原因は、酸化ストレスや炎症とも関係しているものと考えられます。
酸化ストレスや炎症はテロメアを傷つけてしまい、傷ついたテロメアはその傷をさらに蓄積して、テロメアが短くなることを一層促進してしまうのです。
本来テロメアは、ダメージを受けないように保護されています。
しかし、これらの原因によって保護されなくなり、ダメージを受けやすくなります。
ダメージを受けたテロメアはどんどん短くなり、病気(がん、動脈硬化、心筋梗塞、認知症等)にかかりやすくなるとさえ言われています。
不安やうつ病といった精神的なものでさえも、その症状が重くなればなるほど、テロメアは短くなるのです。
それでは、短くなってしまったテロメアを長くすることはできないのでしょうか?
実はテロメアを長くすることも可能とされており、その重要な機能を担うのが「テロメラーゼ」という酵素です。
テロメラーゼが機能すると、テロメアを修復し、再生することができ、テロメアを長くすることができるのです。
近年流行のマインドフルネス瞑想を行うことにより、心理的なストレスを取り除き、テロメアを伸ばすことができるということも指摘されています。
以上のことから、テロメアが短くならないようにする、テロメアを長くするためには、ストレスをためないようにすること、生活習慣を改善することが重要であるということがおわかりいただけたと思います。
良い生活習慣というのは、
1.適度な運動を行っているか
2.栄養のバランスが取れた食事を摂っているか
3.良質な睡眠をとっているか。
という、一般的に健康長寿に必要とされていることなのです。
これらの習慣がテロメアを良好な状態にしてくれるのです。
テロメアを良好な状態にする〜運動編〜
まずは、テロメアを運動の観点から見てみましょう。
運動には、テロメアを短くする原因となる酸化ストレスや炎症を抑える効果が期待できます。
これはテロメラーゼの働きが活性化されることに由来するものと言われています。
トレーニングにおける超回復のような現象、つまり運動を行うことにより、短期的にはストレスがかかるものの、そこから回復するときにより良い状態になるといったことが起こっているのです。
あくまでも「回復することができる程度」にストレスをかけることがポイントです。
筋肉を鍛えるときも、トレーニングもやりすぎると肉離れや筋断裂といったようにケガしてしまいますよね。
テロメアも同じように、一度に激しい運動をすると、テロメラーゼによる回復効果を超えてしまい、酸化ストレスを高めてしまったり、炎症を引き起こしたりして、結果としてテロメアを短くすることになってしまいかねません。
そのため、運動習慣がない方がお休みの日だけ高い強度で運動をするというのはオススメできません。
一度に激しい運動をするのではなく、継続的に運動する習慣を手に入れることが重要なのです。
このことは、運動習慣を持つ人がそうでない人より、テロメアが長いという事実からもわかっています。
運動習慣は、エネルギー産出機能を高めるだけではなく、細胞内で酸化ストレスや炎症を抑える働きが活性化され、細胞を健康的な状態に保ってくれるのです。
具体的には、どのような運動をしたら良いでしょうか?
テロメアを良好な状態にする上で、最も推奨されている運動は、有酸素運動です。
RPE(主観的運動強度)で60%程度、つまり「ややきつい」と感じる程度、多少息は上がっても会話ができる程度で、1日40分程度、週に3日行うと良いでしょう。
とはいえ、忙しくて1日40分も時間を取れないという方もいらっしゃると思います。
そのときは運動の時間として確保しなくても、例えば近くのコンビニに行くときに歩くようにする、一つ前のバス停で降りて歩くといったように、生活の各シーンで少しでも体を動かす習慣を取り入れるようにしましょう。
体を動かす習慣を取り入れることができないか、日々の生活を見直してみましょう。
テロメアを良好な状態にする〜栄養編〜
次に、栄養面からテロメアを考えてみましょう。
当然のことですが、食べ物やサプリメントの中には、テロメアにとって良い働きをするものもあれば、悪い働きをするものもあります。
特に現代の食生活で気をつけなければならないものの一つは、動物性たんぱく質の摂りすぎです。
昨今のトレーニングブームで、高たんぱく質低脂質の鶏肉やホエイプロテインを積極的に取り入れる方も増えています。
しかし、これらは筋肉をつくるためのたんぱく質を補充するのに役立つ一方で、摂りすぎてしまうと体を酸性に傾け、酸化ストレスや炎症を引き起こす要因にもなりうるのです。
そのためたんぱく質は、動物性だけで必要摂取量を満たそうとせず、植物性からも摂るようにする、もっといえば植物性たんぱく質をメインで摂るような食生活を心がけと良いでしょう。
ホールフード(野菜、果物、全粒穀物、芋、豆、ナッツなど加工・精製を行わない植物性食品)は、酸化ストレスや炎症を抑えてくれ、テロメアにとってとても良い食べ物です。
普段の食生活で不足しがちなオメガ3脂肪酸も、テロメアにとって良い影響をもたらすので、魚(マグロ、ブリ、サンマなど)のほか、亜麻仁油や葉物野菜・アブラナ科野菜から摂取することと良いでしょう。
また、ダイエットに取り組んでいる方は、カロリーを気にすることが多いと思いますが、気にしすぎるとストレスを抱えてしまい、テロメアを傷つけることになってしまいます。
綺麗になるために寿命を犠牲にしてしまったら元も子もないですよね。
カロリーを気にするより、身体の代謝を良好にしてくれる低糖質・低GI値の食べ物を意識すると良いでしょう。
普段の食生活に、低糖質・低GI値、ホールフードを積極的に取り入れることで、テロメアは良好な状態で保つことができるのです。
テロメアを良好な状態にする〜睡眠編〜
最後に、睡眠の観点からテロメアを考えてみましょう。
これまでの記事でも睡眠の重要性はお話ししてきたので、健康にとって睡眠がいかに重要かはご理解いただいていると思います。
テロメアを考えたときも、睡眠が大切であることは言うまでもありません。
睡眠不足、質の低い睡眠、睡眠障害などは、テロメアを短くしてしまいます。
個人差はありますが、概ね7時間以上の質の高い睡眠を取れている人は、それ以下の睡眠しか取れていない人より、テロメアが長く保たれるとされています。
あらゆる情報を遮断して、傷ついた細胞を修復・回復するために、最も大きな役割を担う活動が睡眠なのです。
それだけではなく睡眠の効果は、体内時計を正常に働かせたり、情報を整理して記憶を定着させたり、食欲を調整したりすることにも及びます。
それだけ大きな役割を担う睡眠だからこそ、その質を高めたいですよね。
睡眠の質を高めるためには、やはり眠りにつく直前までブルーライトを浴びる、スマホを操作するのは避けるべきです。
ブルーライトが擬似太陽となって体内時計を狂わせたり、指先を動かすことで脳が覚醒してしまったりして、睡眠の妨げとなってしまいます。
睡眠前に脳が覚醒してしまうという観点では、睡眠前に激しい運動することも避けた方が良いでしょう。
睡眠直前はできるだけ穏やかに、ゆっくりと過ごして、入眠の準備をすることがポイントになります。
お風呂上がりにゆっくりストレッチして、緊張状態を緩和するのも良いでしょう。
クラシック音楽などのヒーリングミュージックを聴いて、リラックスするのも良いでしょう。
あるいはレモングラスやラベンダーの香りで嗅いで、リラックスするのも良いかもしれません。
睡眠前はできるだけ穏やかに過ごし、強い光を浴びないようにして、質の高い睡眠をとるように心がけていきましょう。
テロメアを良好な状態にして、健康長寿を目指そう!
今回は「命の回数券」と呼ばれるテロメアの観点から、健康についてお話ししてきました。
観点が変わっても、やはり健康に必要なことの原理原則は共通しているということがおわかりいただけたのではないでしょうか。
そして、原理原則をわかっていることとできることは違うのだ、ということもご理解いただけたと思います。
健康について良いと言われていることをみんながやっていれば、日本はもっと健康大国になれるはずなのです。
知識を身につけることは大切なことですが、それを実行することはもっと大切なことです。
実行したことを習慣化できるように、大きく考え、小さく始めることを心がけましょう。
そうすればエステに行ったり、高価な化粧品を使ったりしなくても、細胞は若々しく保つことはできるのですから。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
<参考文献>
・エリザベス・ブラックバーン、エリッサ・エペル著、森内薫翻訳、細胞から若返る!テロメア・エフェクト 健康長寿のための最強プログラム、NHK出版、2017