栄養のゴールデンタイム


いまだ収束しない新型コロナウイルス感染症の影響。
密を避けるためにお家で過ごす時間が増え、日々の過ごし方を見直した方も多いと思います。
おうち時間の過ごし方として、トレーニング等をご紹介してきましたが、実践していただいているでしょうか?
知っていることとできることでは、QOL(生活の質)において大きな差が生まれますので、ぜひできることからはじめてみましょう。
もしあなたがすでにおうちトレーニングに取り組んでいれば、今回のお話はとても有効に活用いただけると思います。
今回のテーマは「栄養のゴールデンタイム」です。
どのタイミングで何の栄養を摂取すれば、トレーニング効果を高めることができるかをご紹介します。
トレーニング効果は運動、栄養、休養によって構成されますが、タイミングによってその効果が倍変わってくるとも言われています。
少ない努力で大きな成果を得たい方は、ぜひマスターしましょう。

☆有効な「たんぱく質」摂取のタイミング

トレーニングについて多少なりとも知識を持っている方であれば、トレーニング後30分以内にプロテインを摂るべし、ということを聞いたことがあると思います。
トレーニング後にできるだけ早くたんぱく質を摂取するのが良いとされているのです。
たんぱく質摂取のタイミング、つまりトレーニング後30分以内か1時間以上経ってから摂取するかによって、トレーニング効果に30~50%もの大きな差をもたらすとも言われています。
同じトレーニングをして、同じ栄養を摂取しても、タイミングでこれだけの差が出るなんて驚きますよね。
なぜこのような差が生じるかというと超回復、つまりトレーニングによって傷ついた組織を修復することによって前よりも強い組織を手に入れるわけですが、その修復の速度を上げることができるからなのです。
トレーニングに関して、たんぱく質は、身体に生じたダメージを修復する、失った栄養成分等を再合成・補充する、体内に蓄積した老廃物等を分解・排出することに、直接的にまたは間接的に関わっています。
このとき、どのくらいの量のたんぱく質を摂取するかというよりも、むしろこれらのたんぱく質の働きをいかに活性化させるかが重要になってきます。
この活性の度合いがトレーニング後30分以内か、1時間以上経った後かによって大きく異なってくるということなのです。
そして、これらのたんぱく質の働きをより活性化してくれるものがあります。
それは、糖質(炭水化物)です。
糖質(炭水化物)は、インスリンの分泌を刺激してくれますが、このインスリンが筋肉におけるたんぱく質の合成を促進したり、分解を抑制したりする働きを持っているのです。
そのため、トレーニング終了直後できるだけ早いタイミングで、インスリンの分泌を刺激してくれる糖質(炭水化物)を、たんぱく質と合わせて摂取するとより効果が得られるのです。
ちなみに、インスリンの分泌を刺激しないような人工甘味料では効果が得られないことに注意が必要です。

このほかにも、BCAAを摂取すると筋肉痛になりにくいということを聞いたことがある方もいるかもしれません。
BCAAは必須アミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシンの総称であり、摂取するタイミングによってその働きが異なります。

運動前であれば、運動中の筋肉におけるたんぱく質の分解や乳酸の産生を抑制したり、筋肉の損傷の回復を促進したりする働きをします。
運動中であれば、中枢疲労(脳の自律神経中枢へのダメージ)を改善する働きをします。
筋肉痛になりにくい、筋肉痛を感じづらいと言われるのは、このような働きに由来するものと言えるでしょう。
BCAAは、肉や魚といった動物性たんぱく質、大豆等の植物性たんぱく質に含まれていますが、近年ではサプリメント等もあるため活用していくとより効果的です。
ここでご紹介してきたたんぱく質のタイミング栄養を実践し、体内のたんぱく質代謝をレベルアップすると、筋肉や関節のケガの防止に役立つだけではなく、免疫機能を向上させることができるので、新型コロナウイルスに対する免疫としても貢献してくれるはずです。
また、筋肉がしっかりと形作られると基礎代謝が増大するため、体脂肪量を減らすことにも効果的であり、ひいてはダイエットとしての効果も期待できます。
トレーニング終了後すぐにたんぱく質の合成を活性化して、筋肉のダメージの修復を急ぎ、失った栄養成分等を再合成・補充することを念頭に、たんぱく質のゴールデンタイムを逃さないようにしましょう。

☆有効な「グリコーゲン(糖原質)」摂取のタイミング

トレーニングをするときのエネルギーは、体内に貯蔵されているグリコーゲンと脂肪を分解して生成されるATP(アデノシン3リン酸)から生み出されます。
このATPをADP(アデノシン2リン酸)とリン酸に分解したときに生じるエネルギーによって、筋肉は収縮したり、伸展したりすることができるのです。
しかしながらATPは十分な量を体内に蓄えておくことができず、運動中は絶え間なくATPを生み出さなければなりません
そのために、ATPの原料となるグリコーゲンと脂肪をしっかりと蓄えておくことが必要になってきます。
グリコーゲンは筋肉と肝臓に、脂肪は筋肉と脂肪組織に蓄えることができますが、十分な貯蔵ができていなかったり、貯蔵していた以上に激しい運動を行ったりすると、枯渇してしまいます。
なかでもグリコーゲンは、脂肪と比べて枯渇する可能性が高く、枯渇してしまうと筋肉がそれ以上の運動を続けられなくなってしまいます。

では、運動中にグリコーゲンが枯渇しないようにするには、どのようにして筋肉や肝臓にグリコーゲンを蓄えるといいのでしょうか?
それは言うまでもなく食事で摂取すべきであり、特にグリコーゲンのもととなる炭水化物の摂取が重要になります。
たんぱく質の摂取と同様、トレーニング後30分以内に夕食で炭水化物を摂取すると、翌朝には肝臓のグリコーゲン回復(貯蔵)が十分できている状態になります。
トレーニング直後は、筋肉におけるグリコーゲンの合成を行う酵素が活性化した状態にあり、インスリンによる刺激作用も高いため、グリコーゲンの回復(貯蔵)を効果的に進めることができるのです。
さらに、朝食で炭水化物を摂取すると、血糖の上昇反応が生じて、筋肉のグリコーゲン回復(貯蔵)も行うことができます。
また、柑橘類に多く含まれるクエン酸がグリコーゲンの合成を促進する働きを持っていることがわかっており、炭水化物に加えてオレンジジュースなどを摂取することで、回復を一層効果的に行うことができます。
炭水化物を抜くダイエットが流行っていますが、筋肉が十分なパフォーマンスを発揮するには炭水化物を十分に摂取することが大切である、ということは覚えておきましょう。

☆有効な「脂質」摂取のタイミング

「脂質」摂取のタイミングという小見出しにしましたが、あえて摂取をする必要はないかもしれません。
というのも、多くの人が十分すぎるくらいにすでに蓄えているからです。
その意味で、摂取というよりもどのようにして脂肪をエネルギーに変えていくかという観点を持つことが必要になります。
脂肪は、大きく分けて皮下脂肪組織、腹腔内脂肪組織、筋肉間脂肪組織の3つの場所に蓄えられ、それらの脂肪組織から貯蔵された脂肪を分解してエネルギーにしていきます。
その際に重要な役割を担っているのが、ホルモン感受性リパーゼと呼ばれる酵素です。
このホルモン感受性リパーゼは、アドレナリンやノルアドレナリン、甲状腺ホルモンや成長ホルモン等の働き、そして交感神経系を刺激するカフェインによって活性化されます。
ブラックコーヒーはダイエットに良いということを聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
これは、ブラックコーヒーに含まれるカフェインが脂肪の分解に関わっているからなのです。
ホルモン感受性リパーゼが活性化されると、脂肪がグリセロールと脂肪酸へと分解される速度が上がっていきます。
しかし、気をつけなければならないのが、食べ合わせです。
困ったことに、炭水化物や糖質を摂取すると脂肪の動員が止まり、筋肉における脂肪の分解の働きも低下してしまうのです。
そのため、コーヒーや紅茶に砂糖を入れたり、砂糖の入ったお菓子を食べたりするのは避けた方が良いということが言えるでしょう。
ただし、果物に多く含まれるフルクトース(果糖)は脂肪の動員を止めない糖質なので、どうしても甘いものを食べたいときは果物を摂るといいでしょう。

☆何を食べるかだけではなく、いつ食べるかも大切に

今回は、栄養のゴールデンタイムというテーマで、タイミング栄養の重要性をお話ししてきました。
最後に、朝食、昼食、夕食の3食の観点からも簡単にご紹介します。

〇朝食
朝食は、エネルギー源の補給と体温の上昇という点において重要になります。
朝食を抜くと、脳の最大のエネルギー源であるグルコースの供給が低下して頭がボーッとしたり、筋肉のグリコーゲンが十分に蓄えられずすぐに疲労感が出たり、筋肉の減少によって基礎代謝が低下したりと様々な弊害が出てきてしまいます。
以前夕食が遅くなったときは朝食を抜くのも一つの手段ということをお伝えしましたが、これはあくまでも緊急避難的な方法であり、朝食をしっかり摂ること(前日の夕食を早めに済ませておくこと)が理想なのです。

〇昼食
朝食で摂取したエネルギーは午前中でほとんど使い果たしてしまいます。
そのため、午後の活動のためにも昼食をしっかりと摂ることが必要になります。
会社勤めの方は外食が多くなり、サクッと食べられる炭水化物に栄養が偏りがちで、たんぱく質やビタミン類が不足してしまうことも考えられます。
特にビタミンB12は午後1時ころに吸収の消化管機能がピークに達するため、昼食で摂取することが効果的と言えるでしょう。

〇夕食
夕食はこれまでにお話ししてきましたが、トレーニング直後のできるだけ早いタイミングで摂ることが必要です。
トレーニング後30分以内、かつ20時より前に済ませておくとよりよいでしょう。
糖質とたんぱく質、そしてクエン酸(オレンジ等の柑橘類)を一緒に摂ると効果的です。


栄養のゴールデンタイムをしっかりと捉えて、一層効果的なおうちトレーニングに取り組んでいきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


<参考文献>
・鈴木正成、実践的スポーツ栄養学、文光堂、2006
・加藤秀夫・中坊幸弘・中村亜紀、スポーツ・運動栄養学 第3版、栄養科学シリーズNEXT、講談社、2015