新型コロナウイルス感染者数も減少傾向にあり、このまま収束していくことへの期待も大きいかと思います。
しかしその一方で、ワクチン接種を終えた人が新型コロナウイルスに感染してしまう「ブレイクスルー感染」というケースも報告されており、ワクチンを接種したから安心というわけにはいかないようです。
以前の記事でもお話ししましたが、体内に侵入してきたウイルスと闘うのはあなた自身なのであり、病気を治すのもあなた自身なのです。
ワクチン接種を終えたとしても、最終的にはあなた自身の健康状態、免疫機能がしっかりとしていなければ、やはり感染症や病気に侵されてしまいます。
健康状態、免疫機能が正常に働く状態を常に保っていることが何よりも大切だということです。
そこで今回は、健康状態や免疫機能を高めるために、栄養の観点から「ファイトケミカル」についてご紹介したいと思います。
感染症が発症する要因を考える
ファイトケミカルについてお話しする前に、感染症はなぜ発症するのかということについて考えてみます。
感染症の発症やその重篤度については、大きく3つの要因があると考えられます。
1.ウイルスの量
空気感染、飛沫感染、経口感染などさまざまな経路でウイルスは体内に侵入してきます。
体内に侵入したウイルスの量が多かったり、体内に侵入してからウイルスが増殖し量が増えたりすると、発症する危険性が高まることは想像にたやすいでしょう。
2.ウイルスの毒性の強さ
ニュースなどで弱毒性、強毒性といった言葉を見聞きしたことがある方もいらっしゃるでしょう。
ワクチンの中には、ウイルスを弱毒化させたものを接種して免疫を獲得するものもあります。
ウイルスの毒性が弱ければ、発症するリスクも低くなるということですね。
3.免疫機能
体内にウイルスが侵入してきたときに、どれだけすばやくそれらを退治できるか、つまり免疫機能がしっかりしているかが重要な要因になります。
体内にウイルスが入ってきたとしても、それらが身体に悪さをする前に防御したり、取り除いたりすることができれば、発症せずに済むはずなのです。
以上の3つの要因の中で、1と2はウイルスそのものの要因、つまり自分ではどうすることもできないものです。
しかし3は、自身の免疫機能ですから、その機能を最大限に発揮するために改善することができる、つまりコントロールできることなのです。
そのコントロールできる重要な方法の一つが、「栄養」です。
栄養摂取の状態や健康の状態が悪いと、免疫機能が正常に働かず、体内に侵入してきたウイルスに蝕まれてしまいます。
とりわけ栄養不良の状態は、病気にかかりやすい状態であり、ウイルスが感染力を強め、その危険性を高める結果になってしまいます。
つまり、ウイルスに侵されて感染症を発症するか否かの重要なカギの一つがその人の栄養状態であり、栄養不良の状態にあるとウイルスが変異し、感染力を高め、危険性を高めることになってしまうのです。
なお、インフルエンザウイルスの研究では、栄養不良の人の体内で病原性を強め、染色体が変異することが確認されているといいます。
栄養状態が病原体のゲノム配列にまで影響することは、最近までわかっていませんでした。
食事を見直し、栄養状態を良好にして、万全の対策をとることが大切なのです。
ファイトケミカルとは何か?
ファイトケミカル(phytochemical)は、ギリシャ語で「植物」を意味する「phyto」と英語の「化学物質(chemical)」が語源であり、その名の通り「植物に由来する化学物質」の総称をいいます。
決して、頑張れと言う意味のファイトではないのでご注意ください!
(※カタカナ表記のため「フィトケミカル」としているものもありますが、ここでは「ファイトケミカル」で統一表記します。)
化学物質と聞くと、身体に悪そうなイメージを持たれる方もいるかと思いますが、ファイトケミカルは、強い紫外線により発生する活性酸素から守ったり、有害な作用をもたらす害虫から守ったりするために植物が自ら生み出す自然な成分です。
つまり、ファイトケミカルは、紫外線により発生する活性酸素に対抗する作用、外注から身を守る作用を持ち、植物が生き抜いていくために必要不可欠な作用を持っているということです。
なぜこのような作用があるかと言えば、動物のように紫外線を避けて日陰に隠れたり、害虫を追い払ったりするように、動くことはできないからです。
いかなる環境条件でも生き抜いていくために、動物にはない特別な自己防衛機能を持っているのですね。
ファイトケミカルは、野菜や果物をはじめ穀類や豆類に至るまで様々な植物に、視覚的な色、嗅覚的な香り、味覚的な苦味や辛味などの成分として含まれており、その種類は数千種類にも及ぶと言われています。
私たちは野菜や果物などの植物を食べるとき、それらに含まれるファイトケミカルを色、香り、苦みや辛味として五感で感じているのです。
ファイトケミカルと言うとなじみのないもののように感じてしまうかもしれませんが、ブルーベリーなどに豊富に含まれるアントシアニン、大豆などに豊富に含まれるイソフラボン、カカオなどに豊富に含まれるポリフェノール、トマトなどに豊富に含まれるリコピンなど、日常生活でもよく聞くような栄養成分もファイトケミカルの一種なのです。
ファイトケミカルの役割とは何か?
では、ファイトケミカルは人間にとってどのような作用をもたらすのでしょうか。
数千種類にも及ぶと言われるファイトケミカルは、人間の健康や免疫機能に大きく影響を与えており、免疫機能を最大限引き出すために、人間の身体の方がファイトケミカルに依存するように進化してきたとさえも言われています。
具体的には、ファイトケミカルは、以下のような役割を持っています。
<ファイトケミカルの役割>
・解毒酵素を誘導する
・フリーラジカルの生成を抑制する。
・発がん性物質を非活性化、解毒する。
・毒素による破壊から細胞構造体を守る。
・破壊されたDNA配列を修復する機能を促す。
・傷ついた遺伝子を持つ細胞の複製を妨げる。
・抗真菌、抗細菌、抗ウイルス効果を促す。
・傷つけられたり書き換えられたりしたDNAの機能を妨げる。
・免疫細胞が病原菌やがん細胞を殺す能力、細胞毒性(傷害性)を高める。
(ジョエル・ファーマン、2011、p50)
ファイトケミカルが、植物において紫外線により生じる活性酸素に対抗する作用があるということは先にお話ししましたが、人間の身体においても活性酸素に対抗する作用、つまり抗酸化作用を発揮するのです。
抗酸化作用を発揮できれば、身体が錆びつくのを防いだり、動脈硬化を防いだり、老化するのを防いだりすることができます。
また、遺伝子を傷つける活性酸素の発生を抑制するとともに、免疫細胞を増やしたり活性化したりする働きがあり、遺伝子の病気と呼ばれるがんを防ぐことができるとも言われています。
逆に、ファイトケミカルが不足している人の免疫機能は低下し、感染症やがんにかかりやすいということもできるでしょう。
五大栄養素と言われる炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルは、過剰に摂取したり、摂取が不足していたり、バランスが悪かったりすると、病気の原因になることがわかっています。
一方でファイトケミカルは、五大栄養素のように「欠乏の栄養学」でその指標は設けられておらず欠乏の心配はないとされていますが、上記に挙げたような役割を担っていることから、その機能に期待が寄せられているのです。
しかし、ファイトケミカルは「植物由来の」化学物質であるため、人間の体内で生み出すことはできません。
私たち人間がファイトケミカルの恩恵にあずかるためには、野菜や果物をはじめとした植物を食べることしかないのです。
ファイトケミカルの摂り方とは?
それではファイトケミカルはどのように摂取すれば良いのでしょうか?
アメリカNo.1のファミリードクターであるジョエル・ファーマン博士は、
・野菜(生と調理を半々):30~60%
・果物:10~40%
・全粒穀物・ジャガイモ:20%以下
・種子類・ナッツ類・アボガド:10~40%
・肉、魚、卵、乳製品等動物性たんぱく質:極力避ける
という食品ピラミッドを提唱し、特にケールやクレソン、芽キャベツといったアブラナ科の野菜を推奨しています。
この比率と見比べて、あなたの食生活はどうでしょうか?
もちろんこの比率に基づいた食生活にすると、ほとんどヴィーガンになるため、食事を楽しみたいという方にはなかなかつらいものになってしまうでしょう。
しかし、たとえ完全にこの比率を守ることが難しかったとしても、野菜や果物を中心に据えた食生活を意識することは非常に有益であるということを忘れてはいけません。
パーソナルトレーニングジムやフィットネスジムに通い、筋力トレーニングに取り組む人が多くなり、高たんぱく低脂質という観点で栄養を捉え、サラダチキンやホエイプロテインのような動物性たんぱく質の加工食品を摂るといいというように勧められた方も多いのではないでしょうか。
確かにこれらは筋肉をつけることには役に立ちますが、その一方で身体を錆びさせ老化を早めるという側面があることを多くの方が知らないのではないでしょうか。
また、野菜や果物であれば何でも良いのかと言えばそうではなく、加工食品はその加工の過程で大部分のファイトケミカルが失われてしまいます。
生のものが劣化したり、腐敗したりするのは、それが生きているからです。
それが劣化したり、腐敗したりせず、長期保存可能になるということは、「生」あるものを取り除いて「死」の状態にしたり、「生」の働きを止めたりすることを意味するのです。
「生」あるもののチカラ、ファイトケミカルの恩恵を最大限享受するためには、やはり新鮮なもの、無加工のものを積極的に摂ることが必要なのです。
ファイトケミカルを摂って免疫機能を高めよう
「良薬口に苦し」ということわざがあります。
これは医者が処方する漢方薬は苦いが病気によく効くという語源によりますが、この苦み成分がファイトケミカルだったと言えるでしょう。
あなたの食生活にファイトケミカルは取り入れられていますか?
人間が自らの体内で生み出すことのできないものは、食事として摂取するしかありません。
そして、ファイトケミカルは、植物がもたらしてくれる自然の恵みであり、それにより人間はより一層免疫機能を高めることができ、病気や感染症にかかりづらくしてくれるのです。
食生活を見直して、ファイトケミカルを積極的に摂取して、より強い身体を手に入れましょう。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考文献>
・ジョエル・ファーマン、100歳まで病気にならないスーパー免疫力、日本文芸社、2011