今さら聞けない“ピラティス”~実践編~

前回の【理論編】はコチラ


前回は、今さら聞けないピラティス【理論編】についてご紹介しました。
ピラティスとは何か、どのような効果があるかをおわかりいただけたと思います。
ピラティスには「呼吸」、「集中」、「センター」、「コントロール」、「正確性」、「フロー」という6つの基本原則があるのでしたよね。今回は、ピラティス【実践編】として、前回の知識を活かして実際にピラティスの方法についてご紹介したいと思います。



ピラティスの呼吸法

ピラティスにおいて「呼吸」が重要であることは、前回でもご紹介しました。「身体(Body)」、「心(Mind)」、「精神(Spirit)」を貫く本質が“呼吸”なのでしたね。呼吸を有効活用することで、より効果的なピラティスを実践することができます。ピラティスでは、特に3つの呼吸法を利用することで恩恵が受けられるとされています。


胸式呼吸

腹式呼吸とは異なり、腹部の筋肉を内側に引き締めた状態で、胸郭を広げて行う呼吸を「胸式呼吸」といいます。

これはピラティスにおけるコアの安定性を保ち、エクササイズの安全性を高めるため、腹部に力を入れたまま呼吸する方法です。 胸式呼吸はエクササイズ中に腹筋の収縮を持続しやすく、エクササイズに適しているとされています。

エクササイズに応じた呼吸パターン

動きのある段階で息を吸い、それ以外の段階で息を吐くといったように特定の動きに合わせて呼吸を行うことが推奨されています。

あなたも大きな力を出そうとするとき、呼吸を止めてしまうことが多いのではないでしょうか。トレーニングでは「バルサルバ法」と言ったりしますが、息を止めることによる血圧の上昇や筋肉の過度の緊張を招くため、ピラティスには向かない呼吸法です。

ピラティスでは、そのエクササイズに応じた呼吸パターンを行うことで、エクササイズの効率を向上させるのです。

能動呼吸

私たちは普段無意識のうちに呼吸をする、いわば受動呼吸を行っています。ピラティスでは、意図を持って意識的に行う呼吸、「能動呼吸」が積極的に活用されます。

ピラティスの教師であるロン・フレッチャーは、「パーカッシブ・ブリージング」と呼び、息を吸うことと吐くことに意図を持つことが重要だと強調しています。ピラティスの代表的なエクササイズである「ハンドレッド」(後述)などで用いられます。能動呼吸は、リズミカルに息を吸ったり吐いたりしながら、腹筋や肋間筋を段階的に引き締めていく呼吸法です。

これにより、エクササイズをよりダイナミックに、特定の筋肉の活性化を促すことができます。 一方で過度の緊張で筋組織等を傷めないように、緊張しやすい人にはソフトな呼吸法を推奨する場合もあります。




ピラティスの基本的なエクササイズ

ピラティスのエクササイズは数多くありますが、今回は、簡単で安全かつ効果が実感しやすいエクササイズを5つご紹介します。理論編でご紹介した「ピラティスの基本原則」を意識しながら、以下のエクササイズに取り組んでみましょう。

ハンドレッド

仰向けで手を上下させながら、腹筋を鍛えるエクササイズです。

①スタート・ポジション
仰向けになって、両脚を伸ばしたまま60°程度の角度まで上げます。腕は体の脇で手のひらを下にして床につけましょう。

②ポジションセット
息を吐きながら脊柱に引き寄せるように腹部を引っ込め、腹横筋を働かせてから腹筋を使い、上半身を持ち上げます。それと同時に手のひらを下向きにしたまま、腕を太ももの上15~20cmくらいまで上げます。このとき、下背部が浮かないように床に密着させ、骨盤を安定させるようにしましょう。膝を伸ばしたまま内ももを軽くつけ、脚を矢のように真っすぐにするというイメージで行うと良いでしょう。

③息を吸いながら腕の上下運動
息を吸いながら、腕を少し下げ、少し上げを1カウントとして5カウント腕を上下させましょう。体幹はぐらつかないよう深いCカーブに保ち、肩が動かないように腕を動かします。腕でトランポリンを押し下げるイメージで動かすと良いでしょう。

④息を吐きながら腕の上下運動
今度は息を吐きながら、再び5カウントで腕を上下に動かします。このサイクルをフォームが崩れないように最大10回(合計100回)繰り返しましょう。

<ポイント>
●腹筋を使ってコアを安定させ、腰が反らないようにしましょう。
●股関節屈筋や膝の伸筋をしっかり働かせ、脚の高さと真っすぐなラインを維持しましょう。
●肘を伸ばし、指先を遠くに伸ばすイメージを保つようにしましょう。
●腕の動きを速く小さくしつつ、肩が動かないよう注意しましょう。

ロールアップ

背骨を一つずつ動かしながら、仰向けから前屈する動きで体幹を強化するエクササイズです。

①スタート・ポジション
仰向けになって、脚を閉じて真っすぐ伸ばし、腕を肩幅で手のひらを上にして頭上へ伸ばします。

②上体を持ち上げる準備
息を吸いながら腹部を背骨に引き寄せ、あごを軽く引いて、腕を天井方向に上げ、頭と肩甲骨を床から持ち上げます。このとき足を背屈(足のつま先を足の甲の方に曲げる動作)しましょう。

③ロールアップ
息を吐きながら上体を徐々に起こし、椎骨が1つずつ順番に持ち上がるイメージで床から離していきます。体幹を前に倒しながら、頭・手・かかとを遠ざけるように伸ばし、指先をつま先方向に伸ばします。胸郭下部を下後方に引っ張り、大きなボールに沿うようなイメージで背骨を丸めると良いでしょう。

④ロールダウン
息を吸いながら背骨を1つずつ順番に床につけていきます。

⑤スタート・ポジションに戻る
息を吐きながら背骨全体を床に下ろし、腕を頭上に伸ばして最初のポジションに戻ります。このサイクルを10回程度繰り返しましょう。

<ポイント>
●背骨をなめらかに動かすことを意識し、肩や肘の位置を安定させましょう。
●柔軟性と体幹の強化を促進するため、脚を伸ばしたまま行いましょう。

ショルダーブリッジ

骨盤を持ち上げて背骨をコントロールしながら行うエクササイズです。

①スタート・ポジション
仰向けになって、膝を曲げ、足裏を腰幅に広げて床にしっかり押し付けます。骨盤を天井に持ち上げるイメージでハムストリングを使い、骨盤を持ち上げます。このとき手のひらで腰を支えながら、上腕をマットに押しつけ、胸を持ち上げながら脊柱をアーチ状に安定させましょう。そこから片脚を胸に引き寄せるようにして上げてから、真っすぐに天井へ伸ばします。

②脚を下げる動作
息を吐きながら、股関節伸筋を使って脚を床方向に下げ始め、股関節屈筋でコントロールしながら動作を続けます。このとき脚は伸ばしたまま、骨盤を安定させた状態を保ちましょう。

③脚を持ち上げて繰り返し
息を吸いながら、再び持ち上げて、脚を垂直まで戻します。この動作を5回繰り返します。そしてもう一方の脚でも同じステップを行って、最後に骨盤をロールダウンして元の位置に戻します。

<ポイント>
●脊柱をアーチ状に保ち、骨盤を安定させながら脚を動かすことを意識しましょう。
●安定したエクササイズを行うことで、ハムストリングや股関節の屈筋のストレッチ効果も得ることができるでしょう。


プランク

身体を一直線に保ち、全身の体幹を鍛えるエクササイズです。

①スタート・ポジション
四つん這いになって、両手は肩の真下に置き、指を広げてしっかりと支えます。膝は腰幅に開き、背中をまっすぐ保つよう意識します。手首や肩に負担がかからないよう、肩をリラックスさせて耳から遠ざけましょう。

②足を伸ばす
片足ずつ後ろに伸ばして、つま先を床につけます。両足を揃え、骨盤が下がったり上がったりしないようにして、身体を真っすぐにしましょう。腹筋を引き締め、体幹を安定させましょう。

③姿勢のキープ
頭からかかとまで一直線を保ちながら、自然な呼吸を続けます。習熟度に応じて10~30秒程度を目安に姿勢を維持します。首を上げすぎたり下げすぎたりしないよう、視線は床の少し先を見ると良いでしょう。また、安定性を保つために、肩甲骨を広げ、胸を引き上げるようにイメージしましょう。

④スタート・ポジションに戻る
ゆっくり膝を床に下ろし、四つん這いに戻ります。このとき急に力を抜いたりせず、ゆっくりと丁寧に動作を終えることが重要です。

<ポイント>
●腰が浮いたり、反ったりしないよう矢のような一直線をイメージしましょう。
●腹部を引き締めながら、自然な呼吸を続けて体幹を安定させましょう。

キャットストレッチ

四つん這いで背中を丸めたり反らしたりして、背骨を柔軟にするエクササイズです。

①スタート・ポジション
四つん這いになって、腕は肩の真下、膝は股関節の真下に置くようにします。このとき骨盤と脊柱はニュートラルポジションにします。下腹部を引き上げ、腹部を軽く脊柱に引き寄せます。下背部に手が置かれている感覚をイメージすると良いでしょう。

②脊柱の屈曲
息を吐きながら腹筋をさらに引き込み、骨盤を後傾させ、尾骨を軽く引き下げます。手でマットを押し、肩甲骨を広げながら体幹上部を天井に持ち上げます。背中を丸めて、下背部に置かれた手に押し当てるイメージを持ちましょう。

③スタート・ポジションに戻る
息を吸いながら、スタート・ポジションに戻ります。このとき、収縮した状態から弛緩する筋肉は収縮、弛緩した状態から収縮する筋肉は弛緩するといったようにそれぞれ動作と逆方向に力を込める意識を持つとより効果的です。

④胸椎の伸展
息を吐きながら頭と上背部を天井に引き上げるようにして胸椎を重点的に伸ばします。このとき肩甲骨を広げつつ、体幹上部を反らせます。腹筋を同時に収縮させて、骨盤の前傾と腰椎の過剰な反りが生じないようにコントロールします。上背部に手が置かれている感覚をイメージすると良いでしょう。

⑤再びスタート・ポジションに戻る
息を吸いながら、再びスタート・ポジションに戻ります。このサイクルを5回程度繰り返しましょう。

<ポイント>
●腹筋と背筋の共同収縮を意識して、動きを正確にコントロールしましょう。



ピラティスを取り入れて、ウェルビーイングな日常を手に入れよう!

前回の理論編とあわせて、2回にわたってピラティスをご紹介しました。ピラティスが、特に女性から支持されている理由がおわかりいただけたのではないでしょうか。現代社会では、さまざまな健康被害を抱える人が多くなっています。

それは、デスクワークやテレワークなどの座り仕事の増加をはじめとした仕事やライフスタイルの変化によるところが大きいと思われます。そのような問題を手軽に解決してくれるのがピラティスなのです。

ぜひあなたの日常にピラティスを取り入れて、ウェルビーイングな日々を送りましょう。今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。


<参考文献>

●ラエル・イサコウィッツ、カレン・クリッピンジャー、中村尚人日本語版監修、東出顕子訳、「最新ピラーティスアナトミィ:コアの安定とバランスのための本質と実践」、ガイアブックス、2020

●藤谷順三、西良浩一、「脊椎疾患に対するピラティスによる運動療法の可能性」Journal of Spine Research/14巻(2023)6号、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspineres/14/6/14_2023-0609/_pdf/-char/ja、2024年11月23日閲覧

●磯野香代子、猿渡康、「運動の継続を促進する指導者の特徴:ピラティス指導者の質的分析」体育学研究/66巻(2021)、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpehss/66/0/66_20085/_pdf/-char/ja、2024年11月23日閲覧