マラソンで最大のパフォーマンスを発揮する方法

2023.01.06

青少年期の成功体験は、その後の人生に大きく影響してくると言っても過言ではありません。

そのため、一緒に家の周りを走ったり、栄養価の高い料理を振舞ったりと、良い成績を残してもらうために、さまざまな形でサポートをしようと取り組んでいる方もいらっしゃると思います。
これまでの記事でも、栄養の大切さはお伝えしてきましたので、普段の食事を気をつけるようになったご家庭もあるでしょう。

以前、「栄養のゴールデンタイム」という記事で、たんぱく質、糖質、脂質の3大栄養素の効果的な摂取のタイミングについてご紹介しました。

今回は、糖質の摂取のタイミングの中でも、大会・試合当日にピンポイントで身体の状態をピークに持っていく「カーボローディング(グリコーゲンローディング)」という方法についてご紹介します。

カーボローディングとは?

私たちは運動をするときに、エネルギーを必要とします。
そのエネルギーを生み出す方法は複数ありますが、エネルギー源の一つに“グリコーゲン”があります。
グリコーゲンは筋肉や肝臓に蓄えておくことができ、エネルギーが必要になるとそれらを取り出してエネルギーを生み出しているのです。
このグリコーゲンを身体にできるだけたくさん蓄えた状態を大会・試合当日に持っていくための方法を「カーボローディング」と言います。別名「グリコーゲンローディング」とされるのは、エネルギー源であるグリコーゲンをできるだけ蓄えるようにする方法であるからにほかなりません。

通常の食事を行っていても“グリコーゲン”はある程度蓄えることができます。
しかし、長時間継続するような運動を行っていると、やがて枯渇してしまい、疲労やパフォーマンス低下が起こります。

特に1時間30分~2時間を超えるような長時間の運動の場合に、カーボローディングはその効果を発揮すると言われています。つまり、マラソンやトライアスロンのような有酸素性持久力を必要とする競技種目に特に有効だということです。

カーボローディングは、グリコーゲンを身体にたくさん蓄えるために大会・試合前に運動量を調節し、高炭水化物(糖質)を積極的に摂取します。高炭水化物(糖質)を摂取すると、血中グルコースになってエネルギーになり、その残りは筋肉や肝臓にグリコーゲンとして蓄えられます。一度蓄えられたグリコーゲンをあえて減らした後に、高炭水化物を摂取することで、筋肉や肝臓により多くのグリコーゲンを蓄えようという働きが起こります。

このような身体の仕組みを利用することで、大会・試合当日にピークを持っていくことができるのです。

カーボローディングのメリット・デメリット

長時間継続する運動は、それに応じたエネルギーが必要となります。
長時間継続する運動中にそのエネルギーを摂取することは難しいことから、事前にどれだけ身体にエネルギー源を蓄えられるかが競技パフォーマンスに大きく影響するのです。
その点において、カーボローディングは有効な方法ですが、その効果がどれだけ得られるかは人によっても異なるため、メリット・デメリットの両面を把握しておきましょう。

<メリット>

カーボローディングの一番のメリットは、持久力が向上することです。

実践することによって、筋肉に蓄えられるグリコーゲンは、通常より20~40%程度も増加するとされています。
長距離走であと一踏ん張りができたら、結果も大きく変わりそうですよね。

また女性は、月経周期において、卵胞期早期は黄体期に比べてグリコーゲンを蓄える能力が低下すると言われています。これはホルモンの差によるものなのですが、実はカーボローディングを行うことによって、この差を埋めることができるとも言われています。

<デメリット>

カーボローディングの一番のデメリットは、一時的に体重が増加することです。

これは、炭水化物(糖質)には水分を細胞に蓄えようとする性質があるためです。その意味で、体重のわずかな増加がパフォーマンスに影響してしまうような競技には向いていないと言えるでしょう。

また、大会・試合当日前になって初めてカーボローディングを行うと、身体が上手く適応できない可能性もあるので、大会・試合に関わらない時期に試しておいた方が良いでしょう。

カーボローディングの方法

カーボローディングにはいくつか方法がありますが、一般的な方法をご紹介します。

(以下、「女性、13歳、1日の必要摂取カロリー2,700kcal(活動レベル高)、体重47.5kg」と仮定してご紹介します。)

<大会・試合1週間~4日前まで>

1日の必要摂取カロリーは満たしつつ、炭水化物(糖質)の摂取量を少し減らします。

このとき「糖質制限ダイエット」ではないことに注意が必要です。

概ね必要摂取カロリーの50%程度、つまり1350kcal(337.5g)は、炭水化物(糖質)が必要です。

<大会・試合3日前~前日まで>

1日の必要摂取カロリーは満たしつつ、高炭水化物を積極的に摂取します。

体重1㎏当たり8~10gが必要となり、380~475g(1,520~1,900kcal)を摂取しますが、場合によっては、体重1㎏当たり10~12gが必要となり、475~570g(1,900~2,280kcal)摂取することがあります。

<大会・試合当日>

大会・試合当日は競技開始時間の3時間前までには食事を終えるようにしましょう。

普段あまり食べない食材を摂ると、おなかが痛くなるといった不調をきたすといけないので、普段通りの食事にしましょう。

競技時間の1時間前に、スポーツドリンクや栄養ゼリーで糖質を補ってもよいでしょう。

<トレーニングについて>

上記の食事法と併行して、大会・試合1週間前からトレーニング強度を維持しながらトレーニング量を減らしていきます。これをテーパリングと言います。
トレーニングの強度を保ちパフォーマンスを落とさないようにしながらも、身体に蓄えたグリコーゲンを消費しないようにトレーニング量を減らし調整します。

このようにして、大会・試合当日にグリコーゲンの蓄えが最大となるようにするのです。

カーボローディングを実践するときは、数ある炭水化物(糖質)から何を選択するかということにも注意が必要になります。
なぜなら、炭水化物(糖質)の種類によっては、たくさん食べることで身体に何らかの不調をきたす可能性があるからです。
例えば、大豆などの豆類、たまねぎ、栄養バー・シェイクなどに多く含まれるオリゴ糖は、腸内細菌によって発酵され、ガスがたまっておなかが張ったり、おなかを下したりする状態になることがあります。
また、じゃがいもやさつまいもなどのいも類は、炭水化物(糖質)が多いのと同時に食物繊維も多く含んでいるため、おなかの中でガスが発生しやすく、おなかが張った状態になる場合があります。

このように、個々人によって食材との相性が多少なりともあり、栄養素とは別の側面が競技パフォーマンスに影響をきたす可能性があります。

そのため、大会・試合が近くなって初めてカーボローディングを行うのではなく、大会・試合に関わらない時期に何度か試してみて、自分に合う食材を見つけておくことが大切になるのです。

女性においては、日々の必要摂取カロリー全体が問題になるかもしれません。
特に、思春期の多感な時期において、自身の体型に過敏になっていることが多く、食事を抜いたり、摂取カロリーを控えたりすることで調整しようとします。

以前女性アスリートの話の際にご紹介した「女性アスリート三主徴」の一つに、利用可能エネルギー不足がありました。
そのエネルギー不足が起因となり、運動性無月経になったり、最悪の場合骨粗鬆症になったりするのでしたね。

世の中には、不適切なダイエット法があふれているので、成長期の子どもがいらっしゃる親御さんは、食事や栄養に関する偏見を取り除いてあげましょう。

長距離系の競技に取り組む女性は、最低でも1日2,400kcalを摂取するとともに、カーボローディングに取り組む必要があるでしょう。

カーボローディングを取り入れて、最高のパフォーマンスを!

短時間で行う運動や瞬発系の競技において、カーボローディングを行う効果があるのか気になった方もいるかと思いますが、結論から言いますとほとんど効果はないと思われます。

その理由は、短時間の運動であれば通常の食事で蓄えられるグリコーゲンで十分対応できること、またエネルギーを生み出す仕組みが複数あることなどが挙げられます。
エネルギーを生み出す仕組みは大きく3つありますが、こちらはまた別の機会にご紹介することにします。

今回は、長時間継続する運動において効果を発揮するカーボローディングをご紹介しました。

近年、「糖質制限ダイエット」なるものが流行り、炭水化物(糖質)を抜くという極端な食事法が横行しています。
糖質には水分を細胞に引き込む性質があり、糖質制限をすることで引き込まれる水分が減る、それを痩せていると勘違いしているケースが多いようです。

しかし、小学校の家庭科の授業でも、炭水化物(糖質)は必須栄養素であることを学びますよね。
痩せるために健康を害するのでは本末転倒です。

炭水化物(糖質)は、人が生きていく上で必要なエネルギーです。
栄養素の役割を知って、それを効果的に利用すれば、本来持っている能力を最大限に引き出すこともできます。

家庭での食生活は、大人になっても継続される可能性が高いため、ぜひご家庭での食事には正しい知識を反映した内容にしてもらいたいと思います。

競技パフォーマンスを高めて、成功体験を得るために、今回のカーボローディングもぜひ活用してみてはいかがでしょうか。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

<参考文献>

・G.Gregory Haff、N. Travis Triplett 編、篠田 邦彦、岡田准一監修、ストレングストレーニング&コンディショニング 第4版、ブックハウス・エイチディ、2018