つらい花粉症の“今”と“これから

2023.03.17

今の時期は、スギ花粉が多く飛散しており、花粉症の症状に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。とある調査によると、日本人の約50%が花粉症にかかっているとも言われています。
建築木材として利用するためにスギやヒノキが植林されていて、それらの花粉の時期が重なることで、日本では花粉症を発症する人が多いとも言われています。

そこで今回は、「花粉症」についてご紹介したいと思います。

花粉症はなぜ起こるのか?

人の身体には免疫機能が備わっており、身体の中に異物が侵入してくると、それを取り除こうとする反応が起こります。

その反応の結果として、鼻水が出たり、鼻水が詰まったり、くしゃみが出たりといったような症状が出ることをアレルギー性鼻炎と呼びます。
アレルギー性鼻炎は、「通年性アレルギー性鼻炎」と「季節性アレルギー性鼻炎」の2つに分類され、花粉症は後者の「季節性アレルギー性鼻炎」の一種とされています。
つまり、「花粉」という異物が身体の中に侵入することによって、それを取り除こうとする免疫機能が働き、結果として鼻水、鼻詰まり、くしゃみといった症状が表れることを「花粉症」と呼ぶのです。

もう少し詳しくメカニズムを見てみましょう。
身体の中に花粉が入ると、その花粉に対応するためにIgE抗体と呼ばれる免疫に関連するたんぱく質が作られます。肥満細胞(マスト細胞)は、表面にこのIgE抗体を保持します。
そして花粉のようなアレルゲンが侵入してくると、IgE抗体がアレルゲンと結合し、肥満細胞はヒスタミンを放出します。このヒスタミンによって、花粉症の症状である鼻水、鼻詰まり、くしゃみなどが引き起こされてしまうのです。免疫機能は人間が生きていく上で欠かせない大切なものですが、その免疫機能が過剰に働いてしまうと、アレルギーのような形で悪影響をきたしてしまいます。

ちなみに、過剰な免疫機能が悪影響をきたす一方で、花粉症を持っている人は、癌や心臓の病気での死亡率が低いという研究もあるようです。
これは、癌細胞などに対しても免疫機能が強く働く可能性があるからだと考えられています。

花粉症のコップ(バケツ)理論は誤り?

実は、花粉の量は年々減少傾向がありますが、一方で花粉症患者が増えているとも言われています。
毎年のように「とうとう今年花粉症デビューしちゃったよ~」と言った会話がなされたりするのは、もはやおなじみの光景ですよね。花粉症は、年々花粉が蓄積されていき、ある一定量を超えると花粉症の症状を発症するというコップ(バケツ)理論を信じている方も多いと思います。

しかし、近年、コップ(バケツ)理論は誤りであると言われるようになりました。それに代わって、新たな理論として主流となっているのが、てんびん(シーソー)理論です。

てんびん(シーソー)理論とは、
「免疫力」―「アレルギー体質、環境汚染、生活習慣の乱れ、ストレス、花粉の量」のように、バランスを保っているうちは発症せず、バランスを失うと発症するという考え方です。

アレルギーは主に体質によるところが大きいとされますが、それだけではなく、複合的な事由によって影響されてしまうのです。
また、花粉症は遺伝する可能性も指摘されており、さらには花粉症が引き金となって他のアレルギーも悪化することさえあるとされています。

花粉症を予防する方法

花粉症を発症しないようにし、発症してしまっても症状が悪化しないようにするためには、言うまでもなく花粉をできるだけ体内に取り込まないようにすることが一番です。

そのためには、

・花粉の多い日・時間帯の外出を極力避ける

・外出時は花粉が付着しづらい素材の服装を心がける

・花粉症対策用の眼鏡やマスクを着用する

・家に入る際には玄関前で花粉を払うようにする

・帰宅後すぐに手洗いうがいやシャワーを浴びて花粉を洗い流す

・家の中の掃除や空気清浄を行う

・規則正しい生活習慣で体調管理に努める

といった対策が挙げられます。

花粉症が発症してしまった場合の対処法

花粉を取り込まないようにすることが大切だということは理解できても、社会生活を営んでいる以上、予防法を完全に実行することは難しいのではないでしょうか。
そのため、どうしても花粉を取り込んでしまい、花粉症の症状が出てしまうこともあるかと思います。

花粉症になってしまった場合に最も手軽にできるのが、「投薬」です。粉症の薬として代表的なものが、「抗ヒスタミン薬」と呼ばれるものです。先に、ヒスタミンによって、花粉症の症状である鼻水、鼻詰まり、くしゃみなどが引き起こされてしまうという話をしましたが、このヒスタミンを抑制して症状を緩和するのが、抗ヒスタミン薬です。抗ヒスタミン薬には、開発された年代によって「第1世代」と「第2世代」があり、現在では第2世代が主流になっていますが、状況に応じて第1世代が処方されることもあります。

また、近年では、抗ヒスタミン薬より早い段階・上流で効果を発揮してくれる抗IgE抗体「オマリズマブ」という薬があります。オマリズマブは、抗ヒスタミン薬などと比べて、その効果を発揮するメカニズムが異なります。抗ヒスタミン薬が、花粉・アレルギーにIgE抗体が反応し脂肪細胞から放出されるヒスタミンを抑制するのに対し、オマリズマブは、肥満細胞とIgE抗体がくっつく前に作用します。つまり、ヒスタミンが放出されること自体を防ぐことができるのです。これが従来の抗ヒスタミン薬よりも早い段階・上流でアレルギー反応を抑えることができるゆえんなのです。

個人差はありますが、オマリズマブを投薬(注射)することで、劇的に症状を緩和することができるのです。このオマリズマブは、2020年に保険適用の対象となり、次の条件を満たす場合は保険を使うことができます。

・花粉による季節性アレルギー性鼻炎の診断がされていること

・初回投与前の花粉に対する血清特異的IgE抗体が一定基準以上であること

・過去に花粉症の治療を受けたものの、その効果が不充分であったこと

・12 歳以上で、体重及び初回投与前血清中総IgE濃度が投与量換算表で定義される基準を満たすこと

・投与が適切な季節性アレルギー性鼻炎であると診断されていること など

しかし、花粉症の方もオマリズマブをご存じないのではないでしょうか。
実は、オマリズマブはあまり普及していないのが現状なのです。

その理由は、

・金額面(保険適用でも月3万円程度、1シーズンで3~4回の摂取が必要)

・オマリズマブ自体でアレルギーを起こすことがある

・免疫に作用する治療法であり、耳鼻科と内科にまたがる分野のため、対応できる病院が多くない

といったことが挙げられます。

症状を劇的に改善する効果を望めるオマリズマブですが、それでも根治に貢献するものではないとされています。
以上のような投薬の他にも、鼻の粘膜を焼く方法を聞いたことがある方もいるかと思いますが、こちらの方法も根治は期待できず、再発する可能性が高い方法とされています。

根治を目指すための唯一の方法

抗ヒスタミン薬もオマリズマブも花粉症の症状を緩和させることはできても、根治を期待することはできません。

根治を期待できる唯一の方法が「免疫療法」です。
現在行われている免疫療法には、大きく2種類あります。

①舌下免疫療法

一番吸収率が良く免疫反応を起こせる舌の下に、アレルギー反応の元を微量含んだ薬を1分間ほど留め置き、免疫を獲得する方法です。
初回はクリニックなどで服用しますが、処方された薬を飲むだけなので、痛みを生じることもなく自宅でもできます。

②皮下免疫療法

 皮下に直接注射を打って、免疫を獲得する方法です。注射を行うため、痛みを伴い、クリニックや病院などの医療機関で受診する必要があります。

このような根治を期待できる方法があるにもかかわらずあまり普及していないのは、舌下免疫療法は毎日、皮下免疫療法は月1回の頻度で行う必要があり、最低3年、推奨5年という長期間にわたって取り組む必要があるためです。
オマリズマブなどで症状を抑えつつ、免疫療法で根治を目指すというのが、現在の医療の最善策と言えるでしょう。

期待されている「テーラーメイドワクチン」

花粉症の症状や薬の効き目、花粉症になるタイミングなど、人によって大きく異なるのはなぜだろうと思ったことはないでしょうか?
実は、ひと口に花粉症と言っても、その原因となる物質は100種類以上あると言われています。

これは、スギやヒノキなどの異なる植物の花粉ということではなく、同じスギ花粉の中でも原因となるたんぱく質の分子が100種類以上あるということです。
その100種類以上もある原因たんぱく質分子の多くに対しアレルギー反応を示す人もいれば、数種類のみにだけアレルギー反応を示す人もいるなど、人によって異なるのです。
このようなことから、同じ花粉症の人の中でも症状や時期などが異なってくると考えられています。

この人によって異なるアレルゲン分子を特定し、そのアレルゲン分子のためのワクチンを投与するというのが、「テーラーメイドワクチン」というものです。
先にご紹介した舌下免疫療法などは、原因となるアレルゲン分子が異なる場合には効果が出ないことがありますが、テーラーメイドワクチンはその問題を解決してくれます。
ピンポイントで、より早くより効果的に根治を目指すことができるのです。

この他にも食べるワクチン、サプリメントの開発も進んでいます。
たんぱく質の遺伝子を含んだ乳酸菌(遺伝子組み換え乳酸菌)をサプリメントの形でワクチンにして、それを飲み続けることで花粉症の根治を目指そうというものです。
乳酸菌は、ヨーグルトなどにも含まれている安全なもので、注射などよりもアレルギーの応答を抑えてくれる効果も期待できるとされています。

また、漢方としても処方され、梅干しやゆかりなどに含まれる「赤しそ」がアレルギー予防になるという研究もあります。赤しそには、抗アレルギーや抗炎症効果があると言われています。

肥満細胞のはたらきを抑え、ヒスタミンなどの化学伝達物質の顆粒が出なくなるのです。
開発が進めば、より手軽に根治を目指すことができるようになるかもしれません。

花粉症と向き合いQOLを向上させよう

今回は、今の時期、大変な思いをしている人が多い「花粉症」についてご紹介しました。

できるだけ花粉を体内に取り込まないように気をつけつつ、症状が出た場合は薬などを有効に活用して症状を緩和し、長期的な視点を持って花粉症の根治を目指して、QOLを向上させましょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考文献>

・環境省、「花粉症環境保健マニュアル2022」、https://www.env.go.jp/content/900406385.pdf 、2023年3月16日閲覧
・厚生労働省、「最適使用推進ガイドラインオマリズマブ(遺伝子組換え)」、https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000565815.pdf 、2023年3月16日閲覧
・厚生労働省、「的確な花粉症の治療のために(第2版)」、https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000077514.pdf 、2023年3月16日閲覧
・広島大学大学院統合生命科学研究科、「教員インタビュー 研究を語る 河本正次教授」、https://gsbstop.hiroshima-u.ac.jp/kataru/ja/012.html 、2023年3月16日閲覧