冬の寒さも厳しくなるこの時期、何となく身体の調子が優れないという方も少なくないのではないでしょうか。
運動をしようにも、外は雪が積もっている、寒さが厳しい、日照時間が短くて真っ暗…様々な要因で運動しづらい環境だと思います。
そんなとき、お手軽にできる運動が「ストレッチ」です。
あなたはどのようなときにストレッチをするでしょうか?
運動やスポーツをする前や後、お風呂上り、座り仕事が続いたとき…さまざまな場面でストレッチするタイミングがあると思います。
ストレッチはスポーツや運動に比べて、はるかにケガのリスクが低く、かつ部屋などの狭いスペースでも行うことができます。
そこで今回は、「ストレッチ」についてご紹介したいと思います。
ストレッチの効果
保育園・幼稚園、小学校などの小さいころからストレッチをしてきた方がほとんどだと思います。
それでも、ストレッチの効果について深く考えたことはないのではないでしょうか。
一般的にストレッチには、次のような効果があると言われています。
・身体的・精神的なリラックス効果
・筋肉や腱の柔軟性の改善
・関節可動域(ROM:Range Of Motion)の改善
・筋肉や関節のケガ・痛みの予防
・疲労感の解消
スポーツや運動の場面で行われるストレッチは、主にケガの予防や柔軟性、関節可動域を広げることを目的として行われます。
ストレッチのことをよく「柔軟体操」と言ったりしますが、「柔軟性」とは、「1つまたは複数の関節における可動域」※1とされ、より専門的には「正常な関節可動域(ROM)全体にわたり自由に動作するための関節の能力」※1と定義されます。
実は、柔軟性は髙ければ高いほどいいというものではなく、そのスポーツ・運動で最大限のパフォーマンスを発揮するために身体を自由に動作できるだけの柔軟性があれば良く、必要以上に柔軟性を有することで、逆にパフォーマンスが低下してしまうことさえあります。
また、日常の場面で行われるストレッチは、リラックスや筋緊張の緩和といった効果も見込めます。
普段運動する習慣がない場合、狭い関節可動域でしか身体を動かさなかったり、同じ姿勢で長い時間を過ごしたりして、次第に筋肉や関節が凝り固まっていきます。
ストレッチをすることで、このような凝りをほぐすだけではなく、全身に酸素を送り込み、血流を改善して、溜まった疲労物質も流すことができます。
このように身体の緊張状態を緩和することにより、精神的にもリラックス効果を得ることができます。
このリラックス効果を最大限享受するためには、正しい方法でストレッチを行うこともさることながら、呼吸が大切になってきます。
リラックスしながら行う柔軟というと、ヨガを思い浮かべる方もいると思いますが、ヨガは柔軟性を高めることを目的としているのではなく、心身のバランスを整えることを目的としたものであり、やはり呼吸をとても大切にしています。
その観点からすれば、ヨガとストレッチは親和性の高いものと言えるのでしょう。
柔軟でしなやかな身体、そしてバランスの整った心身というのは、自然の健康美を体現してくれます。
見た目の美しさは、単に体重やウエストサイズで決まるものではなく、心身のバランスや柔軟性とも深い関係性があるのです。
ストレッチは、あなたのウェルビーイングのために欠かせない役割を果たしてくれることでしょう。
ストレッチの方法~呼吸編~
わたしたちは無意識のときでも呼吸しており、寝ている間であっても絶えず呼吸をしています。
たとえ3分という短い時間であっても、呼吸が止まれば生きていくことはできません。
もはや無意識に呼吸をすることが当たり前になりすぎて、意識に挙げる機会が少ないのではないでしょうか。
しかし、意識的に呼吸を行うこと、特に深呼吸を行うことはとても大切です。
実は無意識のうちに行う呼吸では、多くの場合、肺の中の空気が完全に外の空気と入れ替えられるということはありません。
解剖学的死腔と呼ばれるものがあり、どうしても古い空気が肺の中に留まってしまうのです。
この解剖学的死腔によるロスを少なくし、より多くの新鮮な空気と効率良く入れ替える方法が、“ゆっくり深く”を意識して深呼吸を行うことなのです。
その効果は深呼吸を数回行うだけでも感じることができ、同時に普段いかに浅い呼吸をしているのかに気づくと思います。
ゆっくりと吸って、ゆっくりと吐く。
一定のリズムで規則正しく呼吸を行うことで、全身に酸素が巡り筋肉がリラックスし、精神的にもリラックスすることができます。
ストレッチを行う際のよくある間違いは、呼吸を止めたままストレッチ姿勢をキープしようとすることです。
どんなストレッチを行う場合であっても呼吸を止めず、ストレッチと呼吸を同調させるように一定のリズムで規則的に行うことを意識しましょう。
大きく息を吸って全身に酸素を行き渡らせた後に、押す・挙げる・引くなどの動作を行い、関節可動域いっぱいまで伸びたときに息を吐く方がより効果を得られます。
呼吸法をマスターすれば、全身に酸素を巡らせることができ、心身ともに自分でコントロールができるようになるはずです。
また、酸素が足りていないとストレスや不眠症、さらには病気、疲労感、負の感情などが生じる一因にもなると言われています。
深呼吸を行うことでこれらの問題を解決することができるため、ストレッチを行うときにはぜひ意識して深呼吸を行うようにしましょう。
ストレッチの方法~種類別ストレッチ編~
ひと口にストレッチと言っても、いくつか種類があります。
いずれの種類であっても、筋肉の温度を高めてからストレッチを行うと、筋肉や腱の粘性が低下して伸ばしやすくなり、より効果的に行うことができます。
少しジョギングをする、お風呂に入るなどして体を温めた後にストレッチを行うのが良いということです。
ここでは4つのストレッチについてご紹介します。
1.静的ストレッチ(スタティックストレッチ)
静的ストレッチは、柔軟性を高めるのに最適なストレッチ方法です。
ゆっくりと行うストレッチ方法のため、伸張反射(筋が受動的に引き伸ばされたときにその筋が収縮する反射のこと)を起こさないで伸ばすことができます。
運動習慣のない方でも、適切な方法で行っている限り、ケガのリスクが低く、安全に行うことができます。
ただし、痛みを感じる程の強さでストレッチすると、筋や結合組織がダメージを受けてしまう可能性もあるので注意が必要です。
静的ストレッチは、心地よい張りを感じるくらいからやや強い張りを感じるくらいの強さで、10秒~60秒同じ姿勢をキープする、といったようにその目的に応じてそのやり方にやや幅があります。
一般的には、初心者のうちには、心地よい張りを感じるくらいの強さになるまでゆっくりとストレッチ姿勢に入り、15秒~20秒程度同じ姿勢をキープすることから始めます。
そこから徐々に時間を延ばしていき、最終的には30秒キープできるようになるのが理想的です。
柔軟性の向上という観点からすれば、30秒から60秒に時間を延ばしても、あまり効果がないということがわかっています。
この静的ストレッチは、運動直前、特にパワー系の運動前に行うとパフォーマンスが低下するとされているため、注意が必要です。
また、静的ストレッチで柔軟性が高まったからと言っても、運動やスポーツにおける動きやパフォーマンスが高まるという例は少ないとされています。
つまり、パフォーマンスを向上させることを目的として柔軟性を高めても効果が出づらいということです。
これらのことから、運動やスポーツの現場では、近年静的ストレッチだけではなく、別のストレッチの種類を組み合わせて行うことが多くなっています。
2.動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)
動的ストレッチは、運動やスポーツなどでより高いレベルを目指すアスリートにおいてよく行われるストレッチ方法です。
主働筋(身体を動かすときに主たる役割を担う筋肉)が急激に収縮することで、拮抗筋(主働筋と反対方向に作用する筋肉)が伸ばされ、ストレッチされます。
反動をつけないで運動やスポーツに特異的な動作で行うものであり、一定の速さで振り動かすことが基本になります。
動的ストレッチは、競技特異的な動きを行うため、静的ストレッチのウィークポイントである競技直前のパフォーマンス低下を引き起こしにくいストレッチ方法でもあります。
一方で、その分ケガをしやすいのが特徴でもあるので、十分に気をつけて行う必要があります。
自然に伸ばすよりもあえて筋肉を引き伸ばすために、運動の範囲が比較的狭い反復運動を10秒~20秒、各筋群1~3セット行うことで、筋肉をストレッチします。
特に、動的ストレッチは機能的な基本動作に重点を置きます。
ストレッチ—リラックスを繰り返すというサイクルで行い、反射的に収縮を引き起こすので、プライオメトリックスと呼ばれるトレーニング方法に類似しています。
3.バリスティックストレッチ
バリスティックストレッチは、急激に、かつ素早く行う反動によって、筋のストレッチできる限界まで、特定の部位を関節可動域全体にわたって動作させるストレッチ方法です。
動的ストレッチと類似していますが、バリスティックストレッチは「反動を利用する」という点において、大きく異なります。
反動を利用するバリスティックストレッチは、過剰に伸展してしまい筋や結合組織にダメージを受けやすい、伸張反射が引き起こされやすいといったように、マイナスの側面も多く見受けられます。
現に、このストレッチ方法は、過去には広く活用されてきましたが、現在では柔軟性を向上させる、関節可動域を拡大させる方法としては不適切であるとされています。
また、早い動作の中でコントロールすることが求められる高度な方法でもあります。
ケガのリスクが高く、伸張反射により動作が制限されるなどのことから、初心者にはあまり馴染まない方法だと言えるでしょう。
4.PNF(Proprioceptive Neuromuscular Facilitation:固有受容性神経筋促通法)ストレッチ
PNFストレッチは、パートナーとともに能動的、受動的な動作を行うことにより、筋の緊張を高めたり、筋を活動させたりすることで、筋を弛緩させるストレッチ方法です。
PNFには様々な方法がありますが、ホールド—リラックス法と呼ばれる、筋を弛緩させた状態で、筋や関節を静的ストレッチの姿勢へと持っていく方法が一般的です。
筋肉をゆっくりと最大限までストレッチし、その状態で静止したまま等尺性収縮(アイソメトリック)を15秒~20秒行い、筋肉を5秒ほどリラックスさせ、さらに30秒ストレッチするといった方法が挙げられます。
この等尺性収縮によるゴルジ腱器官への刺激が、ストレッチ中の筋緊張を抑制してくれるため、結合組織をさらに伸張させることができ、結果として関節可動域が改善されるのです。
このPNFストレッチは、関節可動域を拡大させる方法として広く行われており、特にリハビリテーションなどで活用されています。
パートナーを必要とする点で他のストレッチ方法とは異なり、それゆえパートナーが正しい知識と経験を有していない場合、PNFストレッチによりケガしてしまったり、筋や結合組織にダメージを与えてしまったりする可能性があるため、注意が必要です。
PNFストレッチを行う場合は、正しい知識と経験を持ったパートナーとともに行うようにしましょう。
ストレッチを取り入れて心身の健全な状態を整えよう
今回は、ストレッチについて掘り下げてご紹介してきました。
日常に簡単に取り入れられるものから、より専門的に行う必要があるものまで、ストレッチの世界は幅広いということがおわかりいただけたのではないでしょうか。
外で運動やスポーツがしづらいこの時期、ぜひご自宅でも気軽にできるストレッチを取り入れて、心身の健全な状態を保つようにしましょう。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
<参考文献>
※1 G.Gregory Haff、N. Travis Triplett 編、篠田 邦彦、岡田准一監修、ストレングストレーニング&コンディショニング 第4版、ブックハウス・エイチディ、2018
・フレデリック・ドラヴィエ、ジャン=ピエール・クレマンソー、マイケル・グンディル著、『ストレッチアナトミィ』、ガイアブックス、2016
・長畑芳仁、『ストレッチバイブル—アスリート編』、ベースボールマガジン社、2006