残暑が厳しく、まだまだ強い紫外線が降り注ぐ今日この頃。
美意識の高いあなたは、日頃から日焼け止めクリームなどを使って紫外線対策をされているかもしれません。紫外線は、ビタミンDの生成を助けるなど、健康にとって重要な役割を果たしている一方で、肌の老化、つまり“美”を脅かすものとしてあまりにも有名ですよね。
しかし、紫外線は“美”を失ってしまうだけではなく、健康被害をもたらしうる可能性があるものでもあることは知っていますか?たくさんの環境問題を抱える現代社会において、地表に降り注ぐ紫外線から守ってくれるオゾン層の破壊は、深刻な問題の一つになっています。
健康を守るためにも、紫外線の特性を理解し、適切な対策を講じることが、今いっそう必要になってきているのです。紫外線に対する正しい知識と適切な対策を身につけることで、私たちは健康リスクを最小限に抑えつつ、紫外線の恩恵を享受することができます。
そこで今回は、「紫外線」についてご紹介していきたいと思います。
紫外線とは?
紫外線とは、いったいどのようなものなのでしょうか?紫外線は、波長が10nm~400nmの範囲の電磁波の一種で、その波長に応じて3つに分類されます。
①UV-A
波長が320~400nmの範囲のものを指します。波長が長いものであるため、大気や雲、窓ガラスを透過しやすく、肌の深部である真皮層にまで到達します。コラーゲンやエラスチンを破壊し、シワやたるみなどの老化、メラニン色素の生成促進(日焼け)の原因になります。
②UV-B
波長が280~320nmの範囲のものを指します。UV-Aより波長が短く、エネルギーが高くなり、皮膚の表皮にダメージを与えます。短時間浴びるだけでも日焼けを引き起こす可能性があります。一方で、ビタミンD合成で重要や役割を果たしています。
③UV-C
波長が200~280nmの範囲のものを指します。波長が短く、エネルギーが3つの中で最も高いですが、通常はオゾン層によってほとんどが吸収されるため、自然界では地表に到達することはありません。人工的な光源の殺菌灯をはじめそのエネルギーの高さを利用することもあります。
※ちなみに、上記3つの範囲に含まれない10~200nmの紫外線は空気中でほとんど吸収されてしまい、真空のみで存在するもののため、日常生活で問題になることはありません。
これらの紫外線がそれぞれ異なる特性を持っていることは、ご理解いただけたのではないでしょうか。一般的に、波長が長くなればなるほど透過性が高くなり、波長が短くなればなるほどエネルギーが高くなります。当然のことながら、特徴が異なれば健康に与える影響も異なってきます。
紫外線が健康に及ぼす影響
それでは紫外線は、私たちの健康にどのような影響を与えるのでしょうか。大きく3つに分けてご紹介します。
1.皮膚への影響
紫外線が健康に及ぼす影響でまず挙げられるのが、皮膚への影響です。
・日焼け:紫外線が皮膚に当たると、メラニン色素が生成され、皮膚が褐色に変化します。これは、皮膚が紫外線から身を守るための防御反応です。
・老化:長時間にわたって紫外線にさらされると、皮膚の弾力性を失わせ、シワやたるみ、シミなどを引き起こします。
・皮膚がん:紫外線は皮膚がんのリスクを高め、特にメラノーマ(悪性黒色腫)は早期発見が難しく、死亡率が高いがんとして恐れられています。
紫外線は、皮膚細胞のDNAに損傷を与えます。これが蓄積されると、やがて皮膚がんの原因ともなり得る恐ろしいものなのです。特にUV-Bは強力な発がん因子として知られ、短時間でも強いUV-Bにさらされると皮膚細胞に深刻なダメージを与えるとされています。また、長期的にUV-Aにさらされると、皮膚の老化を進行させてしまいます。
2.目への影響
紫外線は、目の健康にも悪影響を及ぼすとされています。紫外線は、網膜までは届かないため、その手前の角膜やその付近の結膜に悪影響をきたします。
・角膜炎:角膜にダメージが生じ、痛み、視力障害、結膜充血などの症状が表れます。
・白内障:水晶体にダメージが生じ、白内障を引き起こす可能性があります。
UV-Bは角膜や水晶体、UV-Aは多くの部分が水晶体に到達して、目にダメージを与えます。特に雪が積もる地域にお住まいの方は注意が必要です。あなたも雪が降り積もる晴天の日に、目が焼けるように感じたことがあるのではないでしょうか。これは、太陽から降り注いだ紫外線が、降り積もった雪で乱反射して、目に飛び込んでくるからなのです。目に対するダメージは視力低下、最悪の場合失明につながる可能性もあります。
3.免疫機能への影響
さらに紫外線は、免疫機能にも悪影響を与えるとされています。その多くは、特に皮膚を介して起こることが多く、その結果全身の免疫機能に影響を及ぼすことがあるのです。紫外線、特にUV-Bは、皮膚における局所的な免疫抑制、つまり免疫機能の活性化能力や有効性の低下を引き起こします。これにより先に挙げた皮膚がんのリスクが高まったり、感染症に対する抵抗力が低下してしまったりと、様々な健康被害をもたらすことになるのです。
しっかりと行いたい紫外線対策
紫外線が健康に与える影響を見てみると、紫外線対策がいかに重要であるかということがご理解いただけたのではないでしょうか。日常生活において行いたい紫外線対策には、以下のようなものがあります。
日焼け止めの活用
紫外線対策でまず挙げられるのが、日焼け止めの有効活用です。日焼け止めに記載されているSPF(Sun Protection Factor)は、UV-Bに対する防止効果を示すものです。また、PA(Protection Grade of UVA)は、UV-Aに対する防止効果を示すものです。
UV-A、UV-Bの両方から皮膚を守るためには、SPF値・PA値が高いものを選ぶと効果的だということです。特に外でスポーツなどを楽しむ際には、SPF値30以上、PA値が高い日焼け止めを使用、十分な量(約2mg/cm²)を紫外線を浴びる30分前には塗布し、その後は2~3時間ごとに塗り直すことが推奨されています。
このように説明すると、SPF値とPA値が高いというだけで日焼け止めを選択してしまいそうですが、実はSPF値やPA値が高いものは肌への負担も大きく、肌トラブルの原因になる可能性もあります。そのため、日光にさらされる時間や日差しの強さなど、どれくらい紫外線にさらされるかを考慮して必要なSPF値、PA値を選択した方が良いでしょう。
紫外線対策の衣類着用
肌に届いた紫外線がダメージを与えないようにバリアする日焼け止めと併せて、肌に届く紫外線を減少させることができる適切な衣類を着用することも重要です。長袖の衣類、最近ではUVカット機能のあるものがあるため、このようなものを着用することで肌を保護することができます。
またUVカット機能のあるサングラスや帽子・サンバイザーは、紫外線から顔や目を効果的に保護してくれるでしょう。さらに、近年では男性でも使用することが多くなった日傘は、全身に当たる紫外線を減少させてくれます。
屋内・日陰の活用
紫外線対策で最も効果的なこと、それはそもそも紫外線に当たらない環境に身を置くことです。1日の紫外線量の約半分が10時~14時に降り注ぐとされているため、この時間帯の外出を避け、カーテンを閉め切った部屋や窓から離れた室内にいることで、多くの紫外線を浴びることを防ぐことができます。
またどうしても外出しなければならない場合でも、日陰を選んで歩いたり、信号を建物の陰で待ったりすることでも、紫外線にさらされることを避けることができるでしょう。
紫外線を考慮して1日のスケジュールを立てることも非常に有効な紫外線対策になるのです。
紫外線対策をしっかりと行って健康を守ろう
今回は、紫外線についてご紹介してきました。
紫外線と言えば、真っ先に思い浮かぶのが「美」の敵であることですが、それのみならず私たちの健康を脅かすリスクをはらんでいるのです。もちろん、適度に紫外線に当たることは、ビタミンDの生成を促進し、骨の健康などに役立つものという側面はあります。
しかし、近年の環境問題や異常気象なども相まって、紫外線が健康に与える悪影響にいっそう気をつけなければならなくなっています。皮膚の健康、目の健康、そして免疫機能を正常に保つために、紫外線対策が欠かせないのです。
特に、成長過程にある子どもたちにとっては、その将来の健康を左右する重要な要素にもなり得るため、紫外線についての教育も必要になってくるでしょう。子どもたちは大人よりも皮膚が薄く、紫外線の影響を受けやすいため、早いうちから正しい知識を身につけ、適切な紫外線対策を取る習慣を育むことが大切なのです。親御さんにおいては、子どもたちに紫外線について教えてあげたり、日焼け止めを塗ってあげるといった紫外線対策を一緒に実践したりしてあげることで、子どもたちの健康を守ることができます。ぜひ子どもたちとコミュニケーションを図りながら、紫外線対策の習慣を身につけてあげましょう。
また、1日のスケジュールを立てるに当たっては、気象庁が提供している「UVインデックス」という指標があるため、このような指標を参考にすることも有効です(気象庁のホームページで「紫外線の予測分布図」という情報が公開されています)。しかし、どれだけ対策をしていても、完全に紫外線を防ぐことは困難です。
万一、長期間紫外線にさらされた後に、皮膚の異常が見つかった場合には、早期に医師の診断を受けるようにしましょう。
紫外線対策は、日常の小さな努力の積み重ねです。日焼け止めの使用、適切な衣類の着用、紫外線量の多い時間帯の外出抑制など、日々の生活の中で意識的に行動することで、紫外線による健康リスクを大幅に軽減することができます。
また、紫外線に関する最新の科学的知見を積極的に学び続けることも、私たちの健康を守る上でとても有効です。今後も正しい知識を身につけ、適切な紫外線対策を講じて、紫外線と向き合い、健康的な生活を送るよう心がけましょう。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考文献>
・大中忠勝、『紫外線とその健康影響』TheAnnalsofphysiologicalanthropology1993年12巻1号p.1-10、https://www.jstage.jst.go.jp/article/ahs1983/12/1/12_1_1/_pdf/-char/ja、2024年8月27日閲覧
・荻原彰、北川奈々、小西伴尚、『中学校における紫外線教育教材の開発と実践』生物教育2016年57巻1号p.20-26、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjbe/57/1/57_20/_pdf/-char/ja、2024年8月27日閲覧
・一般社団法人日本スポーツ栄養協会、「アウトドアスポーツの日焼け対策 アスリートのリスク抑制に関するレビューを基にした推奨事項」スポーツ栄養Web、https://sndj-web.jp/news/001736.php 、2024年8月27日閲覧