人生の成功を大きく左右する“EQ”(後編)

2023.11.24


前回は、EQの基本概念や測定方法、その重要性についてご紹介しました。
EQを高めることで人生のあらゆる場面に活かすことができ、QOLを向上させることができるということをご理解いただけたのではないでしょうか。今回は、EQを高める実践的な方法についてご紹介したいと思います。



EQを高める方法


前回、EQを構成する要素について「自己認識」、「自己管理」、「社会的認識」、「人間関係管理」の4つのスキルに分類できるということをご紹介しました。つまり、この4つのスキルそれぞれを伸ばすことが、EQを高めることにつながると言えるでしょう。そこで、4つのスキルそれぞれについてご紹介していきます。


1.「自己認識」力を高める

「自己認識」とは、自分の内なる声に耳を傾け、自分自身の感情や考えを理解することを意味します。自己認識を高めることで、自分の感情に振り回されることなくその感情をコントロールし、コミュニケーション能力を高めることができます。


○ 感情を観察する

自分自身がどのような感情を抱いているのかを身体で感じて、日常的に観察するようにしてみましょう。どのような出来事や状況が、どのような感情を引き起こすのか、そしてそれがどのように波及していくのかを意識的に捉えるようにするのです。過去や未来に対するストレスや不安などから離れて、自分自身が“いま、ここ”で抱いている感情をより鮮明に認識することができる「マインドフルネス瞑想」を取り入れるとより効果的です。
自分の感情を観察するときは、「良い」「悪い」という分類を行うのではなく、その感情があなたに何を伝えようとしているかということにフォーカスすることが大切です。このように感情を観察することで、自分の感情のクセを知ることができ、そのような感情を引き起こす場面に対して、予め対策を講じることができるようになるのです。


○日記をつける

感情を観察するとともに、日記をつけることも効果的です。
自分自身の感情が動いたとき、例えばストレスを感じているときの感情、映画や音楽などに触れているときの感情など、日常生活におけるあらゆる感情を書き記すようにしてみましょう。感情を日記につけることで、感情の変化やそのパターンを可視化することができ、自分自身の感情のクセを見出しやすくなるはずです。


○自己反省する

過去の自分の感情や行動について振り返り、あなたの感情や行動を誘発する人やモノを知り、なぜそのように感じたのか、どのように行動すべきだったのかについて思考を巡らせてみましょう。このとき自分の人生観や価値観を中心に据えた上で、自分自身を振り返ることが大切です。
自己反省を定期的に行うことで、初めのうちは居心地の悪さを感じていた状況にも少しずつ慣れて適応できるようになったといったようなちょっとした成長にも気づくことができるはずです。


○他者の視点や俯瞰して自分を見る

他者の視点から感情を見ること、そして俯瞰して自分を見ることで、自分の感情をより客観的に認識することができます。他者の視点を尊重し、俯瞰して自分を見て、自分以外の人が“自分”の感情や行動をどのように認識しているのかを知る努力を積み重ねましょう。


○フィードバックを求める

自分自身を客観的に見ることも大切ですが、やはり他者からフィードバックをもらうことも大切です。積極的に、家族や友人などの信頼できる人や専門家に、自分の感情や行動についてフィードバックを求めてましょう。フィードバックをもらうことで、自分では気づかなかった盲点を認識することができるでしょう。
さらに専門家によるカウンセリングやコーチングなどを受けることで、自己認識に関するより深い洞察を得ることもできるでしょう。



2.「自己管理」力を高める

「自己管理」とは、行動を起こしたり起こさなかったりするときに表に出るものです。自己管理力が高ければ、自分の感情をコントロールし、冷静な判断力を保つことができるため、効果的なストレスマネジメントや適切な感情表現につながります。


○感情を認識し理解する

自分の感情を正確に認識し、それがどのように行動に影響するかを理解することが大切です。
自分の感情と理性のリストを作成し、そのリストに則った行動をできているかを確認、自分自身に起こった変化を実感してみましょう。感情の認識と理解ができれば、感情が高ぶっているときでも、感情的にならず行為に集中したり、感情が落ち着くまで10カウントしたりと、冷静に分析・対応する習慣を身につけることができるでしょう。


○ストレスを管理する

こころの平静状態を保つには、ストレスを管理する必要があります。
自分に合った適切な休息やリラックス方法を見つけることは、ストレスを管理するためにとても重要です。定期的に運動したり、質の高い睡眠を取ったり、正しく深い呼吸をしたりするなど、効果的なストレス対策に時間を取って取り組むようにしてみましょう。
また、物事に対してポジティブな姿勢で向き合うことで、ストレスやマイナスの感情を軽減することができます。ネガティブなひとりごとが出ないようにコントロールし、笑顔や笑い声が増えるようときにはユーモアを持つことを意識しましょう。


○目標を設定し優先順位付けや時間管理を行う

明確な目標を設定し、優先順位をつけて時間管理を行うことで、無駄なエネルギーの消費を避け、ストレスを軽減することができます。新しいスキルを身につけた自分の姿を自由に思い描き、そうなるためにはどうしたらよいか書き出してみましょう。
目標実現に向けて取り組んでいくときには、タスクを適切に管理し、スケジュールを立てて時間を効果的に使うことを考えてみましょう。毎日時間に追われる忙しい方であっても、問題解決に費やす時間や休息・充電する時間を先に確保すると、目標実現に少しずつでも近づいていることが実感できるはずです。


○的確に伝えるコミュニケーションスキルを磨く

衝突やストレスが発生した際に、柔軟性を持って、冷静かつ効果的なコミュニケーションを図るスキルを磨くことが大切です。相手の意見を理解するように努めながら、自分の感情を的確に伝え、予期せぬ事態にも柔軟に対応できるようにしましょう。


○フィードバックを活用する

他者からのフィードバックを受け入れ、成長のために積極的に活用します。自分の感情を管理する場合に、他者の意見は非常に有益です。自己管理の専門家や普段接する機会が少ないような人、あらゆる人との出会いから学ぶようにしましょう。



3.「社会的認識」力を高める

「社会的認識」とは、他者の感情や視点を理解し、適切に対応する能力を指します。他人の感情や視点を理解することができるようになると、共感力が高まり、より効果的なコミュニケーションが可能になります。


◯他者の感情を理解する

他者がどのような感情を抱いているかを観察し、理解することが大切です。そのためには何かをしながらの「ながら聞き」ではなく、アクティブ・リスニング(能動的な聞き方)で今目の前にいる相手の話に集中し、ときには質問を行うなど理解しようとする姿勢を持ちましょう。
また、相手の立場や視点を理解するために、自分の視点から離れ、相手の立場になりきって、共感を示すことも大切です。相手の話の腰を折らないように良きタイミングを見計らったり、自分の頭の中を整理し理解が合っているか確認をしたりすることも共感を示すために効果的と言えます。共感を示すことで、他者との感情的なつながりができ、良い人間関係を築くことができるはずです。


◯非言語コミュニケーションを理解する

コミュニケーションには言語で行うものだけではなく、非言語的コミュニケーションがあります。
例えば、ボディランゲージやジェスチャー、表情、声のトーン、その場の雰囲気など、言語ではないところでコミュニケーションが図られることもあるのです。言語、非言語の全体像を見ることで、相手の感情をより正確に理解できるようにしましょう。


◯多様性を理解する

異なる文化や異なるバッググラウンドに対して理解を深めることも大切です。
例えば、頭を撫でる行為は、日本では相手を愛でる行為ですが、儒教の国では頭に神が宿るとされることから侮辱的な行為と捉えられたりしますし、日本では鼻水が止まらないときに鼻をすする人は多いですが、欧米圏では鼻をすする行為に嫌悪感を示す人が多かったりします。異なる文化や異なるバックグラウンドを持つ人々と交流し、異なる視点や価値観を理解することで、より広範な人々と良い関係性を築くことができます。
多様性を理解するには、街中で人間観察を行ったり、行ったことのない場所に身を置いたり、テレビや映画の世界観を理解したりすることも役立つでしょう。


◯文脈を理解する

他者の行動や発言を周囲の状況と関連づけ、文脈を理解することで、相手の意図や感情をより良く把握できます。例えば、特定の趣味趣向を持った人の集まりであれば、その趣味趣向がいかに素晴らしいかという論調で相手が話をするだろうといったことは容易に想像ができるわけです。このように文脈を理解し、質問事項などを前もって準備をしておくことで、より良いコミュニケーションを図ることができます。


◯フィードバックを受け入れる

他者からのフィードバックを受け入れ、それを元に自分の行動やコミュニケーションスタイルを調整しましょう。他者からのフィードバックや意見は、貴重な学びの機会とすることができるのです。



4.「人間関係管理」力を高める

「人間関係管理」とは、自分と他者の感情を理解し、他者との効果的なコミュニケーションを管理することを意味します。積極的なコミュニケーションや協力関係の構築に取り組むことで、相手との信頼や共感を深めることができるのです。


◯自分なりのコミュニケーションを磨く

人間関係の基本は、まぎれもなく効果的なコミュニケーションにあります。相手を混乱させないクリアで適切なコミュニケーションを心がけ、自分なりの自然なコミュニケーションのスタイルを磨きましょう。
また、相手の協力に感謝の意や思いやりを言葉はもちろん行動で示すことで、ポジティブな人間関係を構築できます。


◯共感力を磨く

他者の感情や視点に共感することができると、より深い人間関係を築くことができます。相手に好奇心を持ってオープンマインドで接するとともに、相手の立場を理解し気持ちを認め、相手の感情や状況に寄り添いましょう。


◯コンフリクト(衝突)の解決能力を磨く

他者とのコミュニケーションには、コンフリクト(衝突)がつきもので、どんなに策を講じたとしてもゼロにすることはできません。コンフリクトが生じたときには、冷静な判断と何らかの解決策を見つけ出す必要があるため、柔軟な対応をとるようにしましょう。何らかの決断を下した際には、その理由を懇切丁寧に説明したり、首尾一貫したプロセスを大切にしたり、あるいは曖昧な表現を避けたりすることである程度コンフリクトを避けることもできます。
どうしてもコンフリクトを避けられないときには、厳しくも建設的な対話を交わしたり、ときには自然のなりゆきに任せたりすることも大切です。コンフリクトを恐れず、解決方法の引き出しを増やせるよう向き合ってみましょう。


◯リーダーシップを発揮する

リーダーシップを発揮し、チームメンバーでの協力関係や信頼関係を率先して築いていくことが大切です。チームメンバーをサポートし、理解し、共感するとともに、皆が同じ方向に進めるようビジョンを共有してみましょう。怒るときは感情的になるのではなく意図的に行い、大勢の前で恥をかかせるようなやり方は避けて、相手の居場所を奪わないようタイムリーに行うようにしましょう。


◯他者の強みを活かす

チームメンバーや同僚の強みや得意分野を認識し、それを活かすような協力関係を構築しましょう。率直に建設的なフィードバックを与えることで、より有益な関係性を築くことができるはずです。



EQを向上させて人生を豊かにしよう


前回、そして今回と2回にわたりEQについてご紹介しました。
実際にEQを高めたいと思ったとき、今回ご紹介した4つのスキルすべてを一気に伸ばそうとするよりも、どれかにフォーカスをして取り組んだ方が効果的です。そのために、EQを高めるための行動計画を作って、EQ向上に向けて取り組んでみましょう。行動計画を立てる際には、以下のようなステップを踏んでみてください。

ステップ1:前回の記事のEQの測定方法であなたの現在のEQを分析する
ステップ2:あなたが伸ばしたいEQスキルを選択する
ステップ3:そのEQスキルを伸ばすための方法を今回の記事からまず1つ選択する
ステップ4:そのEQスキルに秀でたメンターを探してロールモデルにする
ステップ5:完璧ではなく少しずつでも成長することを目指し、継続的に取り組む
ステップ6:ステップ1と同様に、あなたのEQがどれくらい成長したか測定する

以上のようなステップに分けて計画的に取り組むと、きっとあなたのEQを向上させることができるでしょう。人生の成功は、単なる知的なスマートさ、つまりIQだけでは成し遂げられません。自分自身を知り、管理し、他者を知り、コミュニケーションを図る、つまりEQが不可欠なのです。EQを向上させて、あなたの人生をより豊かなものにしていきましょう。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。


<参考文献>
・トラヴィス・ブラッドベリー、ジーン・グリーブス著、関美和翻訳、『EQ2.0(「心の知能指数」を高める66のテクニック)』、サンガ、2019
・Junko Ohashi, Toshiki Katsura, Akiko Hoshino, Kanae Usui、” An Analytical Model / Emotional Intelligence Quotient and QOL in Mothers with Infants in Japan”、J Rural Med. 2013; 8(2): 205–211. 、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4309338/、2023年11月17日閲覧
・Lluna María Bru-Luna, Manuel Martí-Vilar, César Merino-Soto, José L. Cervera-Santiago、“Emotional Intelligence Measures: A Systematic Review” Healthcare (Basel). 2021 Dec; 9(12): 1696. 、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8701889/ 、2023年11月17日閲
・Julián Alfonso Muñoz-Parreño, Noelia Belando-Pedreño、“Emotional intelligence, spelling performance and intelligence quotient differences based on the executive function profile of schoolchildren” EJN Volume58, Issue8, October 2023, Pages 3879-3891、https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ejn.16152 、2023年11月17日閲覧
・Emotional Intelligence Training Company Inc.、“EQ-i 2.0 is the world’s leading measure of emotional intelligence”、https://www.eitrainingcompany.com/eq-i/ 、Emotional Intelligence Training Company Inc. 、2023年11月17日閲覧