愛と健康について

愛と健康

新型コロナウイルス感染症の収束が見えない日々。

昨年10月の自殺者数が昨年比で39.9%増、女性にいたっては82.6%増という衝撃的なニュースが駆け巡りました。

専門家は、俳優の自殺報道によるウェルテル効果※、新型コロナウイルス感染症の影響の長期化による不安定な雇用情勢、人間関係の悪化を理由だと説明します。

(※ウェルテル効果:『若きウェルテルの悩み』(ゲーテ著)の自殺した主人公ウェルテルに影響された若者が同じ方法で自殺した事象に由来し、マスコミの報道に影響されて自殺者が増えることを指す。)

前々回の記事『人生の質を高めるココロとカラダの話』では、身体的健康と精神的幸福度に触れ、自分自身を愛することが大切であるということをお話ししました。

不安、悲しみ、苦しみ…自殺にはこのようなネガティブな感情が取り巻いています。

愛のようなポジティブな感情とは対極といえるでしょう。

「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」というアシックス創業者鬼塚喜八郎氏の言葉は以前もご紹介しましたが、やはりネガティブな感情に支配されるとネガティブな結果が生じるのだということを痛感させられます。

ポジティブな感情で満たされ、ポジティブな結果を生むにはどのようにしたらいいのか?

健全なる精神、健全なる肉体を手にするにはどのようにしたらいいのか?

そこで今回は、「愛と健康」をテーマにお話したいと思います。

「愛」って何だ?

そもそも「愛」とは何でしょうか?

デジタル大辞泉(小学館)では、以下のように説明しています。

1 親子・兄弟などがいつくしみ合う気持ち。また、生あるものをかわいがり大事にする気持ち。
2 (性愛の対象として)特定の人をいとしいと思う心。互いに相手を慕う情。恋。
3 ある物事を好み、大切に思う気持ち。
4 個人的な感情を超越した、幸せを願う深く温かい心。
5 キリスト教で、神が人類をいつくしみ、幸福を与えること。また、他者を自分と同じようにいつくしむこと。
6 仏教で、主として貪愛 (とんあい) のこと。自我の欲望に根ざし解脱 (げだつ) を妨げるもの。

さて、あなたはこの定義をどのように思うでしょうか?

納得する方もいれば、うーん…としっくりこない方もいると思います。

感情は極めて抽象的、主観的な産物であり、言葉で寸分の狂いもなく表現(定義)することは不可能といってもいいでしょう。

現にあなたが感じている「愛」と、他の人が感じている「愛」、同じ言葉で表されていても実際に体験している感情は全く同じではないはずです。

「愛」の感じ方は人それぞれなのです。

「愛」にも言語がある?

「愛」の感じ方は人それぞれである、このことにより愛の伝え方・伝わり方、いわゆる愛の言語というものが存在します。

全米、そして日本でもベストセラーになった『愛を伝える5つの方法』(ゲーリー・チャップマン著)では、以下の5つの愛の言語を挙げています。

第一の愛の言語―「肯定的な言葉」
第二の愛の言語―「クオリティ・タイム」
第三の愛の言語―「贈り物」
第四の愛の言語―「サービス行為」
第五の愛の言語―「身体的なタッチ」

第一の愛の言語である「肯定的な言葉」は、「言葉」によって愛を感じるのが特徴です。好き、愛している、今日もキレイだね…このような言葉に愛を感じるのです。

第二の愛の言語である「クオリティ・タイム」は、充実した「時間」によって愛を感じるのが特徴です。単に一緒に過ごすのみならず、興味関心の全集中を自分に向けてくれる時間に愛を感じるのです。

第三の愛の言語である「贈り物」は、「プレゼント」によって愛を感じるのが特徴です。物理的なモノというより、そのモノに込められた自分への思いやりに対して愛を感じるのです。

第四の愛の言語である「サービス行為」は、願いを叶えてくれる「行為」によって愛を感じるのが特徴です。こちらも行為そのものより、その行為に込められた自分への思いやりに対して愛を感じるのです。

第五の愛の言語である「身体的なタッチ」は、身体の「ふれあい」によって愛を感じるのが特徴です。手をつなぐ、ハグをする、キスをする…このようなふれあいに愛を感じるのです。

これら5つの愛の言語は、ただ1つに分類されるよりは、複数の組み合わせで各々に優劣がある場合がほとんどです。

あなたはどの愛の言語を重視しているでしょうか?

そしてあなたの重視している愛の言語で、相手にもその言語を求めていないですか?

なんでこんなに好きなのにわかってくれないのだろう…そう思ったことのある方は、相手の愛の言語があなたの愛の言語とは違うのかもしれません。

日本語で話しかけたのに英語で返ってきたようなものなのです。

これでは会話のキャッチボールは成り立たないですよね。

自分の愛の言語を知り、相手の愛の言語を知る。

そうすることで、今まで以上に愛を感じられるようになるかもしれません。

「愛」はどこで生まれるのか?

少し科学的な観点から、「愛」を捉えてみましょう。

『愛と憂鬱の生まれる場所』(ダニエル・G・エイメン著)では、愛と憂鬱が生まれる場所として、「深部大脳辺縁系」を挙げています。

脳の中心に近い場所にあり、くるみほどの大きさしかないこの深部大脳辺縁系は、感情の抑揚、感情記憶の保存、モチベーション、食欲・睡眠欲・性欲のコントロール、嗅覚の処理、社会的なつながりにおいて、大きな役割を演じます。

深部大脳辺縁系の活動レベルが低いときはポジティブで希望に満ちた心の状態、活動レベルが高くなるとネガティブで悲観的な心の状態が優勢になることがあるのだと言います。

このように見てみると、心の状態やモチベーション、欲望、人間関係(社会的なつながり)は密接に関連していることがわかると思います。

つまり、人間関係が上手くいかないと心の状態やモチベーションの低下、欲望の暴走を招くといったネガティブな影響を与え、一方で人間関係が上手くいっていると心の状態やモチベーションを向上させ、欲望のコントロールにもポジティブな影響を与えるといったことが起こり得るのです。

また、いい香りはポジティブな感情を引き起こし、不快なにおいはネガティブな感情を引き起こすということも想像にたやすいでしょう。

愛と憂鬱は表裏一体なのです。

長期化する新型コロナウイルス感染症の影響で、外出自粛やテレワークの機会が増え、社会的なつながりが希薄になっています。

社会的な孤立がネガティブな感情を想起し、ネガティブな感情が社会的な孤立を促進していく。

まさに今、このような負のスパイラルに陥る人が急増していると考えられます。

負のスパイラルを抜け出す方法

・Think on Paper(紙の上で考える)

不安や苦しみといったカタチのないものは、カタチを留めておけないため、際限なく増大してしまいます。

そのため、不安や苦しみを放置していくと、そのネガティブな感情に瞬く間に支配されてしまうのです。

それを防ぐのが、Think on Paper(紙の上で考える)です。

カタチのないもの、実体のないものを紙の上に落とし込み、文字やイラストというカタチのあるもの、実体のあるものにしてしまうのです。

そして、見える化したネガティブな感情を分析してみましょう。

なぜその感情を抱いているのか、原因は何なのか、危惧していることが起こるとどうなるのか。

このように分析をしていくと、実はたいした問題ではないことがほとんどです。

自分の感情を紙に書き出してしっかりと認識し、それに反論してみましょう。

・ポジティブな影響を与える人とのつながりを持つ

外出自粛が増えると、スマートフォンで情報に触れる機会も増えているかと思います。

近年社会問題となっているSNSでの誹謗中傷に代表されるように、インターネット上にはネガティブな感情を想起したり、ネガティブなつながりを生んだりするようなコンテンツに溢れています。

このようなコンテンツへの接触機会が増えてしまうと、そこにつながりが生まれてしまいます。

そして、そのネガティブなつながりが、ネガティブな感情を一層強めてしまうのです。

そのため、ネガティブな情報に触れた際にはできる限りそこから距離を置き、ポジティブな影響を与える情報に触れるよう意識しましょう。

これはインターネット上に限らず、現実の人間関係にも同じことが言えます。

ネガティブな発言をする人とは距離を置くことが大切なのです。

・環境を整備する

いい香りはポジティブな感情を引き起こすことは先程お話ししました。

今年ブームになった曲『香水』(瑛人)のサビに、

別に君を求めてないけど 横にいられると思い出す 君のドルチェ&ガッバーナの その香水のせいだよ

という歌詞があります。

においや香りは、感情を伴った記憶を呼び覚ましてくれるのです。

そのため、あなたのいい思い出の香り、好きな香りで部屋を満たすようにすれば、ポジティブな感情をも呼び覚ましてくれるでしょう。

最近気温も下がり冬の気配が近づいてきていますが、換気を行ってフレッシュな空気にするとともに、いい香りでポジティブな感情で満たされましょう。

・適度な運動を行う

「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」。

やはり身体的な健康なしには、精神的な健康は語れません。

適度な運動をすると、幸福感のもととなるエンドルフィンが分泌されますが、深部大脳辺縁系にはこのエンドルフィンの受容体が多く存在していると言います。

感情を司る部分を幸福物質で満たしたら、ポジティブな感情でいられます。

適度な運動を意識的に取り入れるようにしましょう。

「愛」を持ってそっと手を差し伸べること

今回は、「愛と健康」をテーマにお話ししてきました。

冒頭にもご紹介したように、今自殺者数が増加傾向にあります。

新型コロナウイルス感染症の影響で、社会的な孤立を感じる人が多くなっています。

あなたの周りにもそのような人がいるかもしれません。

ぜひポジティブな態度で、社会的なつながりを持つよう手を差し伸べてあげてください。

少しでも多くの命を救えるように、「愛」を持って…。

最後までお読みいただきありがとうございました。